第73話 西村千秋の次回作にご期待ください

 お風呂から上がった私は、ベランダに出て夜風に当たっていた。


「~♪」


 自然と、鼻歌がこぼれる。その理由ワケは、右手で光る缶バッチ。

 ずっとほしくて、でもなかなか当たらなくて、半分諦めかけていたシークレット。


「やっぱりミカさん、いい人だなあ」


 あ、別にグッズくれるからいい人ってわけじゃなくて。ちゃんと私が魔法少女が好きなんだってことをわかってくれてるところとか。あとやさしいところ。それから、うん、おっぱいおっきいとこかな。

 ていうか組織にいる人はベル以外みんな、いい人だ。ベル以外は。


「そうだ」


 私は部屋に戻って、クローゼットを開く。


「今度アジトに行くときはミカさんが喜びそうなグッズ持っていこうっと」


 奥にある箱の中には、ガシャポンでゲットしたたくさんのハズレ――もとい、敵キャラのグッズ。

 アジトに行くとロクなことがなかったから、いつも足どりは重たかった。だけどミカさんとグッズ交換ができるかもとなれば違ってくる。


「それに、プリピュアについて語り合えたりしちゃったりして……ふふふ」


 推しは違えど、同じプリピュアを愛する同志。話したらきっと楽しいに決まってる。

 まあ、魔法少女好き同士のトークは乃亜のあさんとするからいいもんね――


「って、あれ?」


 ちょっと待てよ。


 好きなグッズを交換。

 好きなものについて語り合う人がいる。


 もしかして……今の私のオタクライフ、めっちゃ充実してない?


 うん、間違いない。充実してる。これはもうリア充かもしれない。

 今までひっそり楽しむだけだったけど。それでいいって思ってたけど……同じものを好きな人が近くにいるってなると、今までとは違うワクワク感みたいなものがある。


「ここ最近、つらいことがあってもがんばって耐えててよかった……」


 脅されて悪の組織の仲間になったり、無理やりえっちな格好に変身させられたり。

 だけどイヤなことのあとには、必ずいいことがあるんだ。

 そう、つまりなにが言いたいかというと。


 私の魔法少女オタク人生はこれからだ!!


「ふふ、じゃあ早速交換するグッズを用意しないと」


 なにがいいかなあ。


「ん?」


 だけど――


「スマホがふるえてる。電話かな」


 このとき私は、浮かれずに気をつけておくべきだったのだ。


「はいはい今出ますよー……って、げっ」

『お、夜遅くおそうにすまんな』


 いいことのあとには、よくないことが起こるということを。

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