第72話 私にとっては、こっちの方がボーナス
「まったくもう、ベルってば」
アジトを出てからも、私はぶつくさ言いながら帰り道を進んでいた。
「まあまあそれくらいにしてあげてよ、
そんな風に言ってくるのはハカセ――じゃなくて、ミカさんこと、
アジトの外で変身はしていないから、その姿はナイスバディのお姉さん。おかげで目線近くにおっきなおっぱいがあって、チラチラ目がいっちゃう。
いいなあ、私もいつかはあれくらい……
「千秋ちゃん?」
「えっ? あ、はい!」
慌てて顔を上げると、ミカさんはショートボブの毛先をいじりながら、
「あんまり怒んないであげてね。ベルも一応、がんばったみんなにお礼がしたいっていう気持ちはあるからさ」
まーボーナスって言っておいて中身が割引券っていうのはアレだけど、なんて言って苦笑する。
「そうですよ。あんな余りもの押し付けるみたいなの」
そもそも、中学生の私が牛丼屋さんに行く機会なんてないに等しい。なので
「でも、なんだかんだで千秋ちゃんには感謝してるんだよ」
「本当ですかね……」
「ベルだけじゃないよ。橋本さんや
「ミカさんも……?」
うん、とうなずいて、
「千秋ちゃんのおかげでなんていうか、戦いへの向き合い方が変わったと思うんだよね」
「向き合い方?」
「そりゃー今までも戦ってきたよ? でもみんな、心のどこかに『どうせ勝てない』とか『悪の組織は魔法少女の引き立て役だから、適当に』っていう気持ちがあった。私もね」
そんな風に理由をつけて、負けることに慣れてたんだ、とミカさん。
「でも千秋ちゃんは違った。真剣に、真面目にホワイトリリーに勝とうと作戦を考えてくれて……それだけじゃなくて、私たち一緒に戦う人が無理しないようにもしてくれた」
「ミカさん……」
「だから、ありがとね」
「そんな、お礼を言われるようなことなんてなにも」
私だって根底にあるのはホワイトリリー、魔法少女のため、だ。悪の組織のためを思ってじゃない。魔法少女がより輝くために、悪の組織にはしっかりしてもらわないと。そう思って夢中でやってただけだし。
だけど、「ありがとう」って言ってもらえるのはうれしい。心がなんというかこう、ぽわっとなる。これまで生きてきてお礼を言われることなんてあんまりなかったから、余計にかもしれない。
「だから、私からもお礼をしたいなーって」
「え?」
そう言うと、ミカさんは自分のカバンからなにかを取り出して、
「はいこれ」
「これって……」
渡してきたそれを見て、目が丸くなる。
それは、私が集めているプリピュアグッズのひとつ――ガシャポン景品の缶バッチ。
しかも……シークレット!? 全8種類ある中で、入手難易度がちょう高くて誰も持ってないんじゃないかとか言われてるあの!?
「い、いいんですか?」
こんなレアもの、もらっちゃってもいいのかな。いやめちゃくちゃうれしいけど! ベルのボーナスがかすんじゃうくらい最高のボーナスだけど!
「いいのいいの。だって私がほしかったのは敵の怪人のやつだし。たくさんあって困ってたんだよね」
すごい……。私なんて月のお小遣いとにらめっこしながら少しずつガシャポンをまわして、でも当たらなくて肩を落としてばっかりだったのに。これがオトナ買いってやつなのかな。
「そ・の・か・わ・り~」
と、ミカさんがにんまり顔を寄せてきて、
「ほかのグッズでも、交換とかしない?」
「交換……ですか?」
「うん。千秋ちゃんは魔法少女、私は怪人キャラを狙ってるでしょ? お互い欲しいのを交換すれば効率もいいし」
Win‐Winってやつ、とミカさんは笑う。
「どうかな?」
「は、はい! ぜひ!」
「よーし、それじゃ約束ね」
夕焼けで少し赤くなった小指で、私とミカさんは指切りを交わした。
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