第67話 バレてる?バレてない?

「もしかして、寝てるとこ起こしちゃったかな」

「う、ううん。ぜんぜん」


 言えない、今からプリピュア見ようとしてたなんて……。


 乃亜のあさんにはリビングに上がってもらうことにした。私の部屋という選択肢は真っ先に除外。今の私にはハードルが高すぎる。


「それにしても、よかった~」

「な、なにが?」

「ちーちゃんが元気そうで。風邪って聞いたから心配だったんだ」

「うぐっ」


 再び心に矢が刺さる。うう、純粋なまなざしが痛い。


「の、乃亜さんこそ……体調は大丈夫なの?」

「私?」

「先週、休んでたでから」


 きょとんとした表情になったかと思えば「あはは」と頬をかいて、


「もう大丈夫。すっかりよくなったよ」

「そうなの?」

「うん」


 体育の授業だってバッチリ参加したしね、なんて言って笑う。


「……そっか。じゃあ、よかった」


 私は知っている。彼女の言葉の真意を。

 怪人に敗れたせいで体調を崩して。昨日の戦いのとき、私が気持ちを伝えて――プラスの感情を受け取ったことでパワーを取り戻したこと。


 でも、乃亜さんは知らない。ホワイトリリーの正体が乃亜さんだと、私が知っていること。

 それから、私が悪の女幹部の正体だってこと。


 そう、知らないはず。昨日だって変身中は見られてないし、変身した姿だと正体はバレないってベルも言ってたし。

 ていうか、西村千秋わたし=悪の女幹部だってことだけは、絶対に知られたくない。

 マントの下に黒ビキニ。私がそんなエッチな姿をしていたなんて、もし乃亜さんに知られたら……

 うう。考えただけで死にたくなりそう。恥ずかしさで。


「あ、そうだ」


 と、乃亜さんが思いついたように声を上げた。


「風邪がなおったら、またふたりでお出かけしようよ」

「え?」

「ほら、この間は私のせいで途中解散みたいになっちゃったでしょ?」


 たしかにそのとおり。だけど今思えば、あれはハンバーガー怪人が出現したことが原因なんだろう。きっとエリーさんあたりから連絡があって、乃亜さんは行かざるを得なかった。


「プリピュアの映画は見たからー、こんどは甘いもの食べにいくとかどう?」

「あ、えっと」

「あとは買い物かなー。見たい服があるんだよね」


 ぽかんとする私をよそに、どんどん話が決まっていく。けど、嫌な気持ちはしなかった。

 友だちとだから……いや。

 乃亜さんと、だからなのかな……。


「それからー、次は下着も買おうね?」

「しっ!?」


 い、今なんて?


「だって前は試着しただけで買わなかったじゃん」


 そうだね、一緒に試着室入っただけだもんね。ってそうじゃなくて!


「わ、私たちにはまだ早いんじゃないかな……?」


 じゃあ早くなかったらいいのかな。そもそも早い遅いってなにが? あれ、よくわかんなくなってきた。


「えー、そんなことないよ。友だちなんだしさ」

「でも恥ずかしいよ」

「それにー」


 そこまで言ってから、乃亜さんはにこりと笑顔を見せてきて、


「私、ちーちゃんはやっぱり・・・・黒が似合うと思うんだよねー」

「え……」


 とある単語が引っかかった。


「やっぱりって……?」


 知らないはず。昨日、黒ビキニを露出させた女幹部が私だってことは、乃亜さんは知らないはず。

 知らないはず……だよね。


 その真偽を判断しようにも、目の前にあるのは乃亜さんのいつもの笑み。

 でも今は、それが妙に小悪魔チックにも見えて。


「楽しみだね。お出かけするの」


 どっち……?


「え、あの」

「ねっ?」

「う、うん」


 どっちなの!?

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