第63話 強い心、私にできること

「そんな……」

「ギュギュギュ」


 言葉を失う私に、怪人は笑う。どんぶりしかないはずのに、ムカつくくらいのドヤ顔が浮かべているように見えた。


「残念だったギュー。だが、狙いは悪くないギュー」


 言って、ムキムキの腕でおのれの頭部を指すと、


「おまえのにらんだとおり、俺の弱点はフタを開けた中身だギュー」

「……本人が言うことを信用しろっていうの?」

「ギュギュ。だますようなおまえと違って、俺はやさしいんだギュー」

「むう」


 なんか、ますますムカつく。

 怪人はポーズをとってどんぶりの身体を見せびらかしながら、


「俺のどんぶりとフタは最高品質なんだギュー。おまえらの攻撃なんかじゃ傷ひとつつけられないギュー」


 自信満々な理由はそこにあったんだ。ウソを言う必要すらない、絶対破れないよろいだと。


「だから私たちには勝ち目がないとでも言いたいの?」


 隣にやってきたホワイトリリーが言う。いつの間にか地上に降りてきていたみたいだ。


「そうだギュー。おとなしくあきらめろギュー」

「いいえ、絶対にあきらめないわ。魔法少女は絶対、悪に屈したりはしないから」


 力強く返す。まさに正義の味方にふさわしい心構え。

 だけど近くにいる私には、それが強がりだってことがすぐにわかった。

 彼女のひたいにきらりと光るもの。汗だ。


 きっと、無理してる……。

 ホワイトリリーは持久戦に弱い。たぶん、パワーアップしても完全に克服こくふくされたわけじゃないってことなんだろう。


「じゃあ力づくでわからせてやるギューッ!」


 瞬間、怪人が突進してきて、一気に距離を詰めてきた。


「まとめてぶっ飛ぶんだギュー! つゆだくアタック!」

「そうはさせないっ」


 ふたりとも体当たりの餌食えじきになる、その直前。ホワイトリリーが素早く私の前に立って、攻撃を受け止める。


「ホワイトリリー!」

「今のうちに……逃げて!」

「ギュー? 自分からやられにきたのかギュー?」

「くっ……」


 ステッキでなんとか防ぐ。とっさに私をかばって前に出たからビームをうつヒマもないんだ。そのせいで、ただ攻撃を受けることしかできないでいる。

 まさに防戦一方。打つ手なしの状況。


「あ……」


 と、その身体に変化が表れ始めた。

 第2形態の象徴、羽が薄くなってきたのだ。


「ギュギュギュ、限界のようだなギュー」

「ホワイトリリー! いったん攻撃を避けて態勢を立て直して」

「ダメよ」

「どうして」

「だって、私が避けたら、あなたに当たってしまうじゃない」


 必死に食い止めながらも、笑う。


「あなたが悪の組織の一員なのはわかってるわ。でも、前に言ってくれたじゃない」


 魔法少女のこと、大好きだって。


「だから、私は守るわ。まちの人たちを。……私のことを、好きだと言ってくれる人を」

「ホワイトリリー……」


 と、怪人が一層力を強めて、


「ギューッ! さっさと諦めろギュー!」

「いいえ! 絶対に負けないんだから!」


 言葉とは裏腹うらはらに、羽はさらに薄くなって、今にも消えてしまいそう。


 そんな戦いを、決して曲げない信念を見せられたら。


「…………」


 ――私だって、なりふりかまっていられなくなるじゃない。


 目の前で必死に戦ってくれているホワイトリリーを、大好きな魔法少女を助けるために。

 そして、大切な友だちを守るために。


「……やっぱり、やるしかない、よね」


 私にできる……いや。


 私にしかできない最終手段を……っ!

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