第62話 白と黒の共闘

「だ、だましたなギューッ!!」


 思わず出ちゃったセリフに悶絶もんぜつしそうになっていると、温玉☆チーズ牛丼怪人がこっちを向いて叫んだ。


「おのれ……牛丼の純情をもてあそぶなんて、許せないギューッ!」


 相当お怒りの様子。ていうか、牛丼に純情なんてあったんだ。

 だけど今の私は悪役。相手が怒ったくらいでひるむわけにはいかない。むしろどんどん怒らせるくらいでないと。


「ふん、だまされる方が悪いのよ!」

「なんだとギュー!?」


 予想どおり、さらに逆上。その証拠に怪人のフタはカタカタ鳴って、隙間すきまから沸騰ふっとうしたやかんみたいに湯気が出ている。


「決めたギュー。おまえらまとめて、ぶっ飛ばしてやるギュー!」


 まるで赤いマントに向かってくる闘牛のように、全力でこっちに向かってくる怪人。


「ど、どうするの?」


 こっちを見てくるホワイトリリー。少しあわてた様子だ。

 あれ? これってなんだか魔法少女に頼られてるみたいじゃない? やばい、めっちゃテンション上がる……っていやいや、浮かれてる場合じゃない。


「大丈夫よ。私に作戦があるわ」


 そう、なにもただ無策で怒らせたわけじゃない。これからの作戦を、相手に気取けどられないようにするためだ。


「作戦?」

「ええ、耳を貸して」

「わ、わかったわ」


 顔を寄せてくるホワイトリリーに「ごにょごにょ」作戦を耳打ちする。ていうかホワイトリリー、耳までかわいい。近くでも見ても肌はつやつやだし。髪もさらさら。


「……うらやましい」

「え?」

「な、なんでもないわ。とにかく、この作戦でいくわよ」

「それはいいけど、本当に大丈夫なの――」

「ギュギュギューッ!」


 と、会話を引きくような鳴き声。怪人がもうすぐそこまで近づいてきていた。話し合っている時間はない。


「いくわよ」

「う、うん」


 うなずき合って、私たちは二手に分かれる。


「ほらほら、こっちよ!」

「待つんだギューッ!」


 私の挑発ちょうはつを受けて追いかけてくる怪人。捕まらないよう、必死に駅前広場を走り回る。もちろん、マントがめくれて中の黒ビキニが見えないよう注意しながら。


「はあっ、はあっ」


 正直、走るのちょうキツい。そりゃ運動はニガテだけど、せっかく変身したんだからちょっとくらい運動音痴おんちが解消されててもいいのに。


 でも、泣き言なんて言っていられない。

 すべては、私の考えた作戦のため。


『怪人には絶対どこかに弱点があるはずだから、攻撃が当たったことのないところを攻撃しよう作戦』のために。


 ベルは打つ手なしみたいに言っていたけど、私はそうは思わない。

 なんでかって? いやだって、怪人に弱点があるのはお約束だもん。

 となると、あとはどこを狙うかだけ。だけど予想はついていた。プリピュアを何回も見返して、魔法少女を知り尽くしている私の勘が告げているのだ。


 あのフタがアヤシイ、と。

 玉子怪人やチーズ怪人と合体するときも、あのフタが開いた。つまり、フタさえ突き破ってしまえば、怪人の本体にダメージを与えて……たおすことができる!


 あとは――そこを的確に攻撃するだけ!


「今よ!」

「ギュッ?」


 私が合図を送ると、怪人の背後、いや、頭上を飛んでいた・・・・・ホワイトリリーがステッキを持って叫んだ。


「ホワイトスター!」

「ギューッ!?」


 防ぎようのない上からのビーム攻撃が、怪人に直撃する。直後、どかん、と大きな音とともに煙が立ち込めた。


「あ、当たった!」


 よし、ねらいどおり。つゆだくアタックもしていないし、まさにクリーンヒットだ。それに今回は「やったか!?」も言ってないからフラグも立ててない。

 これなら――


「……ギュギュギュ」

「え?」


 だけど、煙の中から聞こえてきたのはまたも不気味な声。

 やがてその姿が見える。


 そこにいる温玉☆チーズ牛丼怪人は、またもや無傷だった。

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