第55話 第2ラウンド・第2形態

 私が言い終わると同時、ホワイトリリーは光に包まれた。


「きゃっ」


 思わず尻もちをついたあと、光を見守る。まばゆい光、けれどそれは目を突き刺すようなまぶしいものじゃなくて、柔らかく、抱きしめてくれるような優しい光。

 ぼんやりとしたそれは、徐々に小さくなっていくと、やがてパンと弾けて……


 ホワイトリリーが、立ち上がっていた。


 見慣れた純白の衣装に、光り輝くブロンドヘア。胸と腰の大きなリボン。

 だけどひとつだけ、いつもと違うところがあった。


 羽。


 彼女の背中には、真っ白な羽があったのだ。


「きれい……」


 そんな単語ひとつでは決して言い表せない。そう思っているのに、言葉が出てこなかった。

 文字どおり、天使。

 天使が、目の前に立っている。


「大丈夫?」

「は、はい」


 手を引かれて立ち上がる。向かい合う私とホワイトリリー。


「ありがとう」

「えっ?」


 訊き返すよりも早く、するりと私の横を通り過ぎながら、


「ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから」


 にこりとほほ笑みを向けてくれたかと思えば、真剣な顔つきへと変わる。


「怪人たち! 勝負はこれからよ!」

「ギューッ!」

「タマーッ!」

「チーッズ!」


 彼女が対峙たいじするのは、3体の怪人。

 魔法少女が戦う、敵。


「あんさん、大丈夫か!?」


 神々しいほどの姿に見とれていると、ベルが隣に駆け寄ってきた。


「あの羽……」


 いつの間にか足元にいたエリーさんが、目を見張っている。彼女もそこにいる天使にくぎづけだった。


「知ってるんですか?」

「あの羽は、いわゆる第2形態よ」

「第2形態?」

「ホワイトリリーがたくさんのプラス感情を得たときにしか出せない――言ってみれば限定版の姿よ」


 私も、この目で見るのはかなり久しぶりだわ、と驚きを隠せない様子で話す。


「本当なら、もっとプラス感情をためておかないと変身できない姿なのに……あなた、いったいなにをしたの?」

「私は……」


 私はただ……


「私の大事な友だちに、素直な気持ちを伝えただけです」


 特別なことは、なにもしていない。

 ちょっとだけ勇気を出してみた。ただそれだけのこと。


「がんばって……ホワイトリリー」


 祈るように両手を握って、私たちに背中を向ける天使を見つめる。つぶやきながら、心の中で必死にエールを送る。


「ギュッギュッギュッ」


 怪人たちは、第2形態になったホワイトリリーを見ても一切ひるむ様子はない。


「少し姿が変わったくらいじゃ、なにも変わらないギュー」


 言うと、牛丼怪人はどんぶりからにょっきり生えた腕を振って、


「さあ! やってやるんだギューッ!」

「タマーッ!」

「チーッズ!」


 呼応するように、玉子怪人とチーズ怪人がホワイトリリーめがけて飛びかかってきた。しかも、さっきよりも速いスピードで。


「まだ力を温存しとったんか!」

「いけない! いったん避けてホワイトリリー!」


 声を上げる白黒の猫たち。だけど叫んだときにはすでにホワイトリリーの目の前に怪人が迫っていて――


「……え?」


 時間にして、まさに一瞬。そんな刹那せつな的な瞬間の後。


 気がついたときには、2体の怪人はホワイトリリーの前で倒れていた。

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