第54話 私の大事な友だち ~Side White~

「そんなこと、ないよ」


 ちーちゃんの声は、元の姿のときにいつも聞くのと同じように、緊張が混じったものだった。


「そんなこと、ない」


 だけど今日は。その言葉には、一切の迷いは感じられない。


 私の手が、ちーちゃんの肩から滑り落ちる。それをすくい上げるように、ぎゅっと両手で包むと、


「……私、魔法少女が好きなの」


 ぽつり、とつぶやいた。


「だけど、誰にも言ったことがなかった。きっと、子どもっぽいってバカにされるだろうから……」


 ちーちゃんはうつむいている。

 それは、なんとなく察していた。最初、プリピュアについて話しかけたときも、すごく慌てていたし。


「だからずっと、ひとりでいた。

 ひとりで楽しめればいいって、そう思ってた」

「……」


 そう言われると、罪悪感が湧き上がってくる。ちーちゃんが魔法少女好きだって知って話しかけたのは、迷惑だったんじゃないかって。


「でもね」


 と、ちーちゃんは顔を上げた。目が合って、思わず私は息をのむ。


「そんな私に、友だちができたの」


 まっすぐ、私の方を見つめていたから。


「その子は私と同じように魔法少女が好きで」


 一緒に出かけて。一緒に映画を見て。感想を言い合って。


「ほんと、私にはもったいないくらいのいい子なんだ」

「……」


 いったい誰のこと、なんて訊くまでもない。それは思い上がりでも、自意識過剰でもない。

 夢崎乃亜わたしのことを、言っているんだと。


「まあ、もしかしたら、向こうは友だちって思ってないかもだけどね」

「そっ」


 そんなことない。私も、ちーちゃんのことは友だちだって思ってる。

 すぐにでもそう答えたかった。でも今の私はホワイトリリー。正体を明かすわけには、いかない。

 だから、


「大丈夫よ」


 私は、ちーちゃんの手を握り返す。


「きっとその子も、思ってるわ」


 せめて思いだけでも伝わればいい、って。


「あなたのことは大事な友だちって」


 面と向かって言えないことも、今なら言える気がした。


「ふふふ、ホワイトリリーがそう言うなら、間違いないね」

「ええ。だって私は、愛と正義の魔法少女だもの。嘘は言わないわ」


 私とちーちゃんは、小さく笑い合う。沈みかけていた心がぽかぽかしたもので包まれる。


「だから」


 私の大事な友だちは言う。

 私の心がぽかぽかするのはきっと、彼女があたたかいから。それが証拠に、頬は真っ赤に染まっている。


「ホワイトリリーも、ひとりじゃないよ」


 私に大切な友だちがいるみたいに、と。


「ひとり……じゃない」

「うん」


 心だけじゃない。


「私が、応援してる」


 身体が、全身が、あったかくなってくる。


「私は魔法少女が……」


 今ならどこへだって行ける。なんだってやれそうな気がする。

 だって、ひとりじゃないから。


「あなたのことが、好きなの」


 瞬間、

 私は光に包まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る