第53話 ひとりじゃない ~Side White~

 魔法少女になると決めたときから、ひとりで戦うことの覚悟はできていた。

 誰にも正体を明かさずに、誰からも理解されることもなく、人知れず戦う存在。それが魔法少女だ、と。


 だから、こうなることも覚悟しているつもりだった。

 こんな風に絶体絶命のピンチに直面したとしても、私を助けにきてくれる人は、私の味方になってくれる人は、絶対に現れない。

 そうなったら、もうどうしようもないのだと。

 潔く、負けを受け入れるしかないと。


 そう思っていた――


 ドゴン!


 にぶい音が響く。同時に私の身体を襲うのは、怪人の拳による衝撃……ではなく、お尻のあたりに広がるじんわりとした痛みだった。


「いたた……」


 体育で跳び箱を失敗しちゃったときの痛みに似ているなあ。情景がぼんやりと浮かんだところで、ようやく地面に尻もちをついたのだと気づいた。


 あれ?


 私、逃げられなくて攻撃をまともに食らったはずじゃあ……。


 自分の置かれている状況を認識できずにいると、痛みを感じるのとは反対側――お腹の方に、やわらかな感触。安心するような、いい匂い。

 そこには、


「あいててて」

「ちっ……」


 ちーちゃん!?


「っ」


 いけない、思わず元の姿での呼び方を声に出しちゃうところだった。今の私は夢崎ゆめさき乃亜のあじゃなくて、魔法少女ホワイトリリーなんだから。


 ちーちゃんは、尻もちをついた私に抱きつくように倒れこんでいる。そして、さっきまで目の前にいたはずの怪人は、私たちと距離ができている。

 まさか……。


 ちーちゃんが飛び出してくれたおかげで、怪人の攻撃を間一髪で避けられた?


「あ……」


 顔を上げてこっちを見てくる。心配してくるように。


「大丈夫? ホワイトリ」

「危ないじゃないっ!」


 自分でもビックリした。ちーちゃんもびくりと震える。

 だけど、止まらない。


「どうしていきなり飛び込んできたの!?」


 一歩間違えたら、怪人の攻撃はちーちゃんに直撃していたかもしれないのに。


「巻き込まれたら、大ケガしちゃってたかもしれないのよ!?」


 ちーちゃんの肩をつかむ。見たところ、ケガはしてないみたい。


「ご、ごめんなさい」


 でも私の心にあるのは、安心でもなければ、飛び出してきたことへの怒りでもない。


「あなたは一般人なのよ……?」


 自分への腹立たしさだった。


「私は、あなたたちを守るために、私は戦っているのよ」


 なのに、守るべき人に助けられるなんて。心配をかけてしまうなんて。

 私は魔法少女。孤高の存在。みんなの平和を守るためなら、自分の身なんか気にしてはいけない。


「それに……」


 ちーちゃんは、それだけじゃない。

 ただの守るべき大勢のうちのひとり、なんかじゃない。

 大事な友だちなのに。


「あなたが危ない目にあうくらいなら……私が傷ついた方がいいわ」


 胸が、苦しくなる。もしちーちゃんが、傷ついたらって思うと。


「こんな魔法少女、失格だわ」


 大事な友だちひとり、守れないなんて。

 友だちとしても、失格だ――


「ううん」


 と、私の肩に、温かいものが触れる。

 ちーちゃんが、私と同じように肩をつかんでいた。いや、私と違って、優しく包み込むように。


 そして、その手はきゅっと力がこめられて。目の前の友だちは、言う。


「そんなこと、ないよ」

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