第52話 覆せない、劣勢

「怪人っ! 私が相手よ!」


 私に背中を見せるホワイトリリーは、そう叫ぶ。


「ギューッ!」


 かかってこいと言わんばかりに両手を振り上げる牛丼怪人。直後、その背後に2つのシルエットが現れた。


「タマーッ!」

「チーッズ!」


 そうだ、今日はさらに2体の怪人もいるんだ。

 本当に、大丈夫なのかな……。


 以前の戦いは、私の作戦で誘導したとはいえ、牛丼怪人1体で敗走を余儀よぎなくされた。今のこの状況はさらに不利。それは、ホワイトリリーだってよくわかっているはず。


「相手が多いなら……これよ!」


 そう言って、ハートのステッキを掲げる。間髪を入れずに、ステッキは光を放って、


「シャイニングシャワー!」


 光が怪人たちの方へと向かっていく。無数の小さな針を内包した、全方位攻撃が。


 そうだ、その手があった。

 前の戦いで橋本はしもとさんたち戦闘員を一掃いっそうした技。ビームと違って、この攻撃なら回避は不可能。もちろん、威力はビームに劣るだろうけど、くり返すことでダメージを蓄積させれば――


「ギュードン、スピンッ!」


 ぎゅるるるるるっ!


「なっ」


 変な音が聞こえたと思ったら、光が霧散むさんした。その先には、ノーダメージの牛丼怪人。そうか、自身の身体(どんぶり)を高速回転させることで防御したのか。

 しかも、


「タマーッ!」

「チーッズ!」


 玉子怪人、チーズ怪人はその背後に隠れていたので、無傷。


「あかん、この前の戦いのデータを学習させたんがあだとなってしもうた……」


 私の隣でうなだれるベル。敵の傾向と対策を知って、計画的に戦おうという私の

提案。それを実行したことが完全に裏目に出てしまっている。


「くっ……」


 苦悶くもんの声が聞こえる。私たちを守るように立っているホワイトリリーから。


「やっぱり体調が戻ってないんだ……」

「そうね。今の状態で怪人を3体相手にするのは正直、厳しいわ」


 右隣(ベルとは反対側)にやってきたエリーさんが言う。


「しかも場所の条件が悪いわ」

「場所の条件?」

「ええ。この広場にいる人たちは、怪人の出現によってあせり、恐怖、戸惑い……つまりはマイナス感情しか抱いていない。ホワイトリリーの力になるプラス感情を持っている人は誰もいないのよ」


 そしてマイナス感情は怪人にとってのエネルギーになっている、とエリーさんは付け足す。


「なにか、ないんですか? この状況をひっくり返す作戦とか」

「それがあれば、とっくの昔に伝えてるわよ」

「そんな……」


 じゃあ、ホワイトリリーが勝つのは、無理ってことなの?


 目の前で戦ってくれている魔法少女を見守る。だけど、見ることしかできない。

 そうだ。今の私はただの女子中学生。

 今までを思い返してみても、私はなにもしていない。

 いくらベルの力で変身できるといっても、ただ変身しただけ。なにもできやしない。


 ほんとに……諦めるしかないの?


「……まだよ!」


 だけど、聞こえてくる声は、まだ折れていない。魔法少女は――正義は勝つということを心から信じている声。

 彼女はステッキを構える。


「ホワイトスター!」


 同時に放たれるのは、ビーム攻撃。だけど、


「ギュッ!」

「タマッ!」

「チーッ!」


 難なくかわす怪人たち。前の戦いと同じ動き。学習しているのなら、なおのこと当たるはずもない。


 本来ならこの攻撃は、ホワイトリリーにとっての得意技で、決め技のはず。でも今それを使うということは、後がないことを意味している。


「このっ!」


 再びビームをうつ……も、結果は同じ。


「くっ」


 と、ホワイトリリーがひざをついた。


「ホワイトリリー!」


 もう、限界なんだ。技を出す力はおろか、変身しているのがやっとの状態なんだ。

 でも怪人たちは、それを待ってはくれない。


「ギュギュギュ」


 のしのしと近づいてくる。まるで勝利を確信したみたいに。


「はあ……はあ……」


 対するホワイトリリーは、肩で息をするだけ。


「これで終わりだギュー」


 牛丼怪人が、拳を振り上げる。ゆっくりと、狙いを定めるように。


「あかん!」

「逃げるのよ! ホワイトリリー!」


 ベルとエリーさんの悲痛な声。だけど届いていないみたいに、彼女は動かない。

 そして――


「ギューッ! 覚悟するギューッ!」


 怪人の拳が振り下ろされた。

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