第51話 魔法少女は、みんなのために

 私の視界を、白が染め上げる。

 すべてをクリアにしてくれそうな白。

 紛れもなく愛と正義の魔法少女、ホワイトリリーだった。


「乃っ、ホワイトリリー!?」


 いけない、思わず「乃亜さん」って呼びそうになった。ここで正体を知っているのは私だけなんだから、気をつけないと。

 それに、ホワイトリリー乃亜さんだって西村千秋わたしが正体を知っていることは知らない。変なことを言って、余計な混乱を招くわけにはいかない。


「えいっ」

「ギュッ」


 私がただ目の前の白を見つめることしかできずにいると、ホワイトリリーは受け止めていた牛丼怪人の腕を押し返した。


「こっちよ」


 牛丼怪人が一瞬バランスを崩した隙を逃さず、ホワイトリリーは私の手を引いて怪人から距離をとる。そしてすかさず、心配するような目をこちらに向けて、


「大丈夫?」

「は、はい」

「よかった。ケガもしてないみたいね」

「ありがとう、ございます……」


 なんだか不思議な気分だ。ホワイトリリーじゃなくて、乃亜さんに直接かれているような。

 だけど、私は慣れ親しん雰囲気を出しちゃダメだ。だって、私がホワイトリリーと対面したのは全部変身した私じゃない姿だから。


 と、私と入れ替わるようにしてベルが前に出る。


「ホワイトリリー! なんでここにおるんや!」

「ベルこそ、また怪人を暴れさせて。ちょっと勝ったからって、そうはいかないんだから――」

「すまん! なんとかしてくれ!」

「え……?」


 びしっ、と見事な土下座を決めたベルに、ホワイトリリーが唖然あぜんとする。


「なにいってるのよ。あなたたちが怪人を暴れさせてるんじゃないの?」

「最初はそのつもりやったんやけど……制御できひんくなってしもうたんや」


 ハカセも、隣でひざをついた。


「ワシからも頼むのじゃ」

「あなたたちが生み出した怪人なら、あなたたちで止められないの?」

「パワーを注入しすぎて、オレらの力では止められへんねん」


 私に話したのと同じことを、苦々しく言う。


「せやから、ホワイトリリーの力を貸してほしいんや――」

「待ちなさい!」


 今度はベルの声が遮られた。物陰から勢いよく現れたのは、もふもふの白猫、エリーさんだった。


「エ、エリー!?」

「ベル、さっきから聞いていれば、なんて情けない! あなたそれでも悪の組織なの?」

「や、やかましい! この間の戦いで負けたクセに偉そうに!」

「それとこれとは話が別でしょ! だいたいいつもあなたは――」


 ぎゃあぎゃあ。

 ぎゃあぎゃあぎゃあ。


 白と黒の言い争いが始まる。同じ種族って言ってたけど、こういうときは手を取り合って――とはいかないのか。まあ人間だって同じようなものだろうけど。


「……しょうがない、わね」


 そんな様子を見てため息をつくのはホワイトリリー。


「エリーたちがあれじゃあ、私がなんとかするしかないわ」

「戦うん、ですか?」

「ええ。まちの人たちが困ってるのを、黙って見過ごすわけにはいかない」

「ホワイトリリー……」


 真っ白でまっすぐな気持ちで、まちの人々を守る。見返りを求めず、みんなのために。それが魔法少女。私が大好きで大好きで、憧れる存在。


「わ、私も手伝います」


 ベルにはさっき断ったけど、ホワイトリリーがやろうとしてくれるなら話は別だ。私も、なにもしないわけにはいかない。


 だけど、


「なに言ってるの、ダメよ」

「でも」

「あなただって、私が守るものに入ってるんだから。危ない目にあわせるわけにはいかないもの」

「でも私だって」

「気持ちだけ、受け取っておくわ」


 そう言い残して、ホワイトリリーは怪人へと向かっていく。

 私は、その背中を見送ることしかできずにいた。

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