第45話 こういう設定はアニメで見たことあるので

「はあ~~~~っ」


 とんでもなく長いため息が、隣から聞こえる。


「はあ~~っ」


 もう一度、ため息。それを発したのは仕事に疲れたサラリーマンでも、夕飯の献立こんだてに悩む主婦でもない。

 ふさふさもふもふの、真っ白な猫だ。


「私としたことが、とんだ早とちりだったわ」


 うつむきながら、ベンチにちょこんと座った白猫が肩を落とす。


 とりあえず場所を変えようということで、私たちは児童公園に移動した。そう、ベルと初めて出会った、あの公園。

 その隅にあるベンチで、私たちは並んで腰かけているわけだけど、


「あなた、本当に知らなかったの?」

「だから、そう言ってるじゃないですか」


 ここに来るまでの間に説明したことを再び話す。自分はたしかにベルと契約して悪の組織の一員になったが、ホワイトリリーの正体はまったく知らなかったこと。今日乃亜のあさんの家にやって来たのは、学校を休んだ彼女のためにプリントを届けにきただけだということ。


「わかってくれました?」

「……はあ~~っ」


 聞こえてきたのは、やっぱりため息。理解はしたけど素直に受け入れられない、そんな様子だ。


「えっと、その……」


 私は少しだけ逡巡しゅんじゅんしてから訊く。


「本当、なんですか? ホワイトリリーの正体が……乃亜さんだってこと」


 偶然にも聞かされた真実。本当なら誰にもバレるわけにはいかないのに、よりにもよって悪の組織の一員である私が知ってしまったわけだけど。


 白猫は観念したように「ふう」とひと息ついてから、


「そうよ。あなたたちの宿敵にしてまちの平和を守る魔法少女ホワイトリリー、その正体は彼女、夢崎ゆめさき乃亜」

「乃亜さんが……」


 正直に言えば、こうしてはっきりと言われてもまだ半信半疑な気持ちはあった。だって、まったく気づかなかったし。見た目もぜんぜん違うし。いやまあ、見た目は変身してるからなんだろう、私だって変身中はバレてないはずだし……たぶん。


「ええと。それで、あなたは」

「エリー」

「え?」

「エリーよ。私のことはそう呼んでちょうだい」

「は、はい」


 白猫、改めエリーさんに向かって、


「乃亜さんにホワイトリリーとしての力を与えたのはエリーさん、ってことでいいんですよね?」

「ええ、そうよ」


 ベルが前に言っていた存在。それが隣にいるエリーさんということで間違いない。


「私とベリアル――ベルは同じ種族なの。そして同じようにこの星にやってきた」

「じゃあ、エリーさんもエネルギー源になる感情を集めるために?」

「そのとおりよ」


 正解、とばかりにもふもふしっぽでマルをつくる。


「ただ、ベルとはエネルギー源にしている感情が違うの」

「そうなんですか?」


 ベルはたしかマイナス感情って言ってたから……


「エリーさんは……プラスの感情を?」

「……」

「あれ、どうかしました?」

「……あなた、本当にホワイトリリーの正体、知らなかったよね?」

「え」

「だって察しがよすぎるんだもの」


 じろり、と黄色い瞳を半眼にしてエリーさんが私を見てくる。


「それはまあ……あはは」


 プリピュアで魔法少女にお決まりの展開はバッチリですから! とはさすがに言えない……。

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