第31話 魅惑の試着室
どうしてこうなった。
「ちーちゃん……ホック、はずしてもらってもいい?」
「う、うん」
「やさしく、ね?」
互いの息を感じるほどに、距離は近い。
「じゃあ、いく……よ?」
「んっ」
短い声は、妙に色っぽい。
「で、できたよ」
「ありがとー。それじゃお返しに、私もはずしてあげるね」
「わ、私は別に」
「もう、ここまできて恥ずかしがらないの。ほら、力ぬいて?」
「え、あ、ちょ」
もう一度言おう。
どうしてこうなった!?
……よし、順番に思い出そう。
ごはんを食べる前に服を見ることになって。
いろんな服を着せられて。
それから――
「うん! やっぱりちーちゃん、こっちの下着も似合うよ!」
ランジェリーショップに連れていかれた。
しかも、しかもだ!
「あ、あの……乃亜さん」
「なに?」
「なんで私たち、同じ試着室に入ってる、のかな」
壁とカーテンに囲まれて、少しだけ薄暗い空間。決して複数人で入ることを想定していないから、私たちは肩がぶつかりそうなほど近い。
「え?」
だけど乃亜さんは、どうしてそんなこと
「だって別々に入ってたら時間、かかっちゃうでしょ?」
「ええと」
「それに、一緒に入った方が感想訊きやすくていいじゃん」
「……」
え、下着買うときってそういうものなの? イマドキのJCはみんなそうなの?
もしかして、私の感覚がおかしいだけ?
ダメだ、なにが当たり前かわからなくなってきた。
「ふっふっふー」
考えすぎて目を回していると、目の前の美少女の顔にはまたしても意味深な笑み。
「えっと、乃亜さん?」
「ちーちゃんって背も高い方だから、黒とか似合うと思うんだよねー」
なんて言ってから、「じゃーん」背中にあった手を私の目の前にもってくる。その手には、いつの間に試着室に持ち込んでいたのか、レースのついた真っ黒な下着……真っ黒な下着!?
「これとかいいと思ってさ。つけてみてよ」
「む、無理無理! 絶対こんなの似合わないって!」
「そんなことないってば! 私が保証するよ!」
「で、でも」
「いいからいいから。れっつとらい、だよ」
ずい、ずずい。ひらひらした黒下着とともに乃亜さんが迫ってくる。ダメだ、すでに服は半脱ぎ状態だし、外には逃げられない。
まあ、こうやって一緒に試着室にいる時点で、私に選択肢はないようなもの、か。
「……わかった」
「ほんと?」
「そ、その代わり! 着替えるときは恥ずかしいからあっち向いててね?」
「はーい」
くるり、と乃亜さんが背を向けたのを確認してから、私は恥ずかしいという感情を押し殺して着替える。
そして、
「……い、一応つけてみた、よ」
おそるおそる報告すると、待ってましたとばかりに乃亜さんは勢いよく振り返った。
「おおー!」
「あ、あんまり見ないで」
あとそんな
「すっごい似合ってる!」
「うう……」
そう言ってくれるのはうれしい。けど、恥ずかしさが上回りすぎてそれを受け取るだけの余裕がまったくない。っていうかこの下着、ちょっと透けててなんだかえっちだし。
「いいなー。黒が似合うって、大人っぽいもん」
「そう、かな」
最近は悪の組織のあの衣装のせいで、私にとって黒は完全にアンラッキーカラーだ。あのバカな黒猫のことを思い出すし。
「あこがれはあるんだけど、私にはあんまり似合わないかなーって」
「私は乃亜さんがうらやましいかな。白とか、すっごいよく似合ってるし」
ちょうど彼女がつけている下着も白ワンポイントでついたピンクのリボンアクセントになっていて、すごくかわいい。まさに純白が似合う天使と言うべきか。
「……」
と、乃亜さんは今一度私の姿をまじまじと見つめる。
「ど、どうしたの?」
下着のつけ方、間違ってたりしたかな。
なんて思っていると、次の瞬間、
「……やっぱりちーちゃんって、おっぱい大きいよね?」
「ひゃあっ!」
もみもみ。
「ちょ、乃亜さ、やめ」
「いーじゃん。減るもんじゃなしー。ちょっとくらいわけてほしーなー」
「む、無理だよー」
もみもみ。もみもみ。
もちろん乃亜さんにやり返すなんてことはできず。
私はなすがままに揉まれるしかなかった。
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