第28話 天使は心まで天使
映画館は、駅から歩いて数分の場所にある。
「はいっ、ちーちゃんの分」
「あ、ありがとう」
「公開初日だけあって、お客さんいっぱいだねー」
ロビーのにぎわいっぷりは、駅前と同じくらい。ただひとつ違うのは、子ども連れの家族が多いことくらいだ。
そういえば、誰かと映画なんて久しぶりかも。
小学生のころは映画を見にいくといえば、家族か友だちとだった。それが気がつけば、いつの間にかぼっち映画がスタンダードに。
まあ、中学生にもなって家族や同級生に「プリピュアの映画、見に行かない?」なんて死んでも言えない。そもそも未だにプリピュアを見てるなんて知られた日には、キモオタのレッテルを
……でも、今日は違う。
なんてったって、クラスのアイドル、乃亜さんと一緒だからね!
まさかこんな陽キャでイマドキの女の子が魔法少女アニメの映画を見に来たとは誰も思うまい。いつもは誰かに見つかるまいと、座席に座るまでコソコソしていたけど、今日はその必要はないのだ。
つまり、私は乃亜さんの隣にいるだけで、堂々とロビーで時間を待ち、そして入場ゲートをくぐることができるわけよ!
ふふふ、乃亜さんと一緒に映画に誘われたときは正直気が引けたけど、こんなメリットがあるなら誰かとの映画も悪くない。
「ちーちゃん、なんだかうれしそうだね?」
「えっ? そ、そうかな」
いけないいけない。
「よかったー」
と、乃亜さんは隣で胸をなでおろした。よかった?
「ど、どうしたの?」
「楽しみにしてるの、私だけだったらどうしよーって思って。ほら、誘ったのだって、ちょっと強引だったから反省してるんだ」
「乃亜、さん」
「もしかしたらちーちゃん、嫌々つきあってくれてるんじゃないかって」
でもよかった。なんて言って、まぶしいくらいに笑う。
「私も今日、すっごく楽しみだったから。ちーちゃんも楽しそうにしてくれてて、うれしい」
「……」
ああああ、なんていい子なんだ!
それにひきかえ私は……私ってやつは!
なぐりたい。乃亜さんを体のいい隠れみのだと思ってた数分前の私を思いきりひっぱたいてやりたい。
「乃亜さん、許して……」
「え、ちーちゃん?」
「ううん、なんでもない。私も今日、すごい楽しみだったから」
神さまに
神さまは目に見えないので、目に見える天使に心の中で手を合わせることにした。
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