第27話 お出かけスタート!

 お願い、ギリギリでもいいから間に合って!


 なんて祈りながら大急ぎで家を出て、運動不足の身体を酷使こくしした結果、


「……早く着いちゃった」


 集合時間まで、まだ10分くらいの余裕がある。人間、本気を出せばなんとかなるらしい。だからって、こんな風にあせって慌てるのは二度とゴメンだけど。


「ふうー……」


 大きく息を吐いて、無理やり呼吸を整える。なんにせよ、遅刻せずに済んでよかった。


 乃亜のあさん、もう来てるのかな。

 休日の午前中ということもあって、駅前広場はにぎやかだ。見通しがよくて絶好の待ち合わせ場所なんだろう、周囲には同じように待ち合わせをしていると思しき人がたくさんいる。


 そういえば以前も、こんな風に人でにぎわっていた。あれはたしか……そうだ。

 この場所でホワイトリリーが、戦ってたんだよね。


 もうだいぶ昔の出来事のように思える。実際、ここで魔法少女と怪人の戦闘があった面影はまったく感じられない。あのときはビルの屋上からベルとこの場所を見てて、そのあと無理やり変身させられて。……うん、そのことは忘れよう。恥ずかしくて死にそうだし。


 思い出しながら、広場の中央に目を向ける。そうそうたしか、このあたりでホワイトリリーが怪人をたおして――


 と。


「あっ、ちーちゃん」


 天使がいた。


「おはよー」


 天使がこっちを向く。あまつさえ、手を振って声をかけてきた。


「どうかした?」

「あ、いや、なんでもないよ。お、おはよう」

「ふふっ、ちーちゃん、お寝坊さんなんじゃないかって心配したよ」


 天使、もとい乃亜さんが笑う。


「ご、ごめん。待たせちゃったかな」

「ううん、全然だよ。私も今来たところだし」


 うーん、絵に描いたようなデートにおけるセリフのやりとり。まさか私が当事者側にまわる日が来ようとは。クラスのアイドルたる乃亜さんにこんなことを言われた日には、男子は失神してしまうに違いない。


 ……ま、今日は成り行きで一緒に映画を見ることになっただけだから、デートなんていう空想上のイベントとはまったく関係ないんだけどね。


「それにしても、晴れてよかったねー」


 乃亜さんがのびをすると、肩甲骨けんこうこつあたりまであるきれいな茶髪がふわりと揺れる。いつか抱きつかれたときと同じ甘い香りが漂ってきた。どんな生活したらこんないい匂いになれるんだろう。


「……」


 なんて考えていると、乃亜さんがまじまじとこっちを見ていた。


「な、なに?」

「ちーちゃん、その服かわいいね」

「えっ……えええ!?」


 いきなりなにを言うんだこの子は! 私のどこを見てそんな、か、かわいいなんて。何を隠そう、時間がないからクローゼットから適当に選んだTシャツにロングスカートだよ?


「そ、そそ、そんなことないってば」

「もー、照れちゃってー」

「それを言ったら、その……乃亜さんの方が、か、かわいいよ」

「ほんと?」


 彼女がまとう白のワンピースを見て言う。美少女が白ワンピだよ? 天使と見間違えてしまうのも仕方ないよ。

 しかも、ワンピースのたけはひざ上まで。無垢なひざと、まぶしいくらいの脚。女子の私ですら目のやり場に困ってしまいそうだ。


「えへへー、ちーちゃんにそう言われると照れちゃうなー」


 ばきゅん。乃亜さんがはにかんだ瞬間、撃ち抜かれたような音がした。幻聴かな? うん、きっと幻聴だ。


「あっ、映画始まっちゃうね」


 乃亜さんがスマホを見て声を上げる。たしかにそのとおりだ。あんまりのんびりもしていられない。


「行こっか?」

「う、うん」


 こうして、クラスの人気者と陰キャのデーt、あ、いや違う。お出かけはスタートしたのだった。

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