第25話 thank God it's Friday ~花金~

 一度みんなでちゃんと話し合おう。


 夜通しの作戦会議や、スポーツ公園でのことを踏まえて、私はそう提案した。


 前もって連絡して、全員集合できることを確認。

 そして、金曜日の夜。

 予定どおりみんな集まった。そこまではよかったのに――


「「「かんぱーい!」」」

「……」


 どうしてこうなった。


 集まったのはアジト、ではなく、私の歓迎会を開いた駅前の居酒屋。そして前と同じ一番奥の座敷。どうも悪の組織ベルたちは常連客みたいだ。


「えーっと」


 橋本はしもとさんたち戦闘員の人たちは仕事終わりなのかスーツ姿で、ビールをおいしそうに飲んでいる。ミカさんはなぜかハカセの姿に変身した状態だ。


「どうしたんや、ぼーっとして」


 ベルがいてくる。グラスに入ったビールをなめたせいで口元に白いヒゲができてしまっていた。


「私、てっきりアジトで話し合うんだと思ってたんだけど……」

「ちっちっち」


 わかってないなあ、とでも言うように、しっぽを振る。


「あんさん、今日は金曜日やで?」

「それが?」

「つまりは花金ハナキンや。こんな日にみんな集まるんやから、そら飲まなあかんやろ」

「はあ……」


 そういえばお父さんも金曜は飲んで帰ってくることが多い。うーん、私もオトナになったらわかるのかな。


千秋殿ちあきどのよ。さっきから全然食べておらんぞ」


 ひょい、とハカセが隣に座る。


「千秋殿お気に入りのだし巻き卵も、ちゃーんと頼んでおるんじゃぞ」

「ほんとですか? ありがとうございます」


 やった、前に来たときに食べた料理の中で一番おいしかったんだよね。

 ぱくり。もぐもぐ。

 うん、この口どけのよさに甘い味付け。クセになっちゃう。


「って、そうじゃなくて!」


 いけない、だし巻き卵のおいしさで本来の目的を忘れるところだった。


「今日は話し合うために集まってもらったんです!」


 言うと、橋本さんたちはびっくりして私の方を向いた。


「今度こそ、前もって作戦会議しておきましょうよ」

「ほっほっほ、千秋殿の言うとおりじゃのう」


 ハカセがつるつる頭をなでる。


「ハンガーバー怪人もあっさりやられてしもうたようじゃし」

「ほんまやで。今回のは力作やって言っとったがな」

「いやー、すまんのお」

「頼むで」


 ふんす、とベルが鼻を鳴らしたところで、


「まあ次、がんばりましょうよ」


 壁にもたれながら、二階堂にかいどうさんが言った。もう顔と名前は一致している……はず、うん。


「そうそう。ぼちぼちいきましょう」

「まあ、俺たちがどれだけがんばってもやられちゃうんですから」

「ホワイトリリーにやられるまでがセットなんですし」


 たしかにそのとおり。

 悪の組織は結局引き立て役。魔法少女が光り輝くための存在。

 どうせ最後は魔法少女に負けちゃうんだから。


 ――いや。


「……メです」

「どうしたのじゃ? 千秋殿」

「それじゃダメなんです!」


 私は思い出す。あれはたしか、徹夜の不毛な作戦会議を止めたときに思ったこと。


『こんなの、悪の組織じゃない』


 無茶な呼び出しにみんなを無計画にこき使う。それじゃあ勝てるものも勝てない。

 でもそれ以前に、


「みんな……本気で魔法少女に勝とうと思ってるの?」


 たしかにプリピュアに出てくる敵たちも、結局いつもやられちゃっている。だからって、負けてもいいや、みたいな気持ちで戦ったことなんて、一度もない。毎回勝とうとして全力でいどんでいる。

 魔法少女は、光り輝くみんなの希望。その敵であるならば、悪の組織も魔法少女にふさわしい存在でいなければならないのだ。


「オ、オレはもちろん思ってるで!」

「じゃあ、なおのこと話し合わないとダメでしょ?」

「うぐ」

「だから、ちゃんと話し合おう」


『私が、この組織を変える!』


 少しでも魔法少女の敵にふさわしくなるために。魔法少女がより私のあこがれであるために。


 気がつけば、みんな背すじを正して私の言葉を聞いてくれていた。私の気持ちが、伝わったみたいだ。


「せやけど、作戦会議するにしても何を話し合うんや」


 ただひとり(1匹?)、ベルの態度はいつもと変わらなかった。


「あんさんの言うとおり、怪人を出すときにはみんな集まれるようにしておく。けれど、それ以外にどないせーっちゅうんや」


 いや、そこを考えるための作戦会議じゃん。まあこれまで無策で負けっぱなしのベルにいきなり作戦を考えようって言うだけだと無理があるか。

 うーん。


「今までホワイトリリーと戦ってきて、なにか勝てそうな戦い方とか……そう、弱点! 弱点みたいなの、ないの?」


 プリピュアでもそうだった。プリピュアの弱点を見抜かれて、窮地きゅうちに立たされる。定番中の定番の展開。どんなに強い魔法少女でも、弱点があったりするものなのだ。


「せやなあ」


 ベルは腕組みをして考える。しっぽをゆらゆら、鼻をひくひく。そして、


「わからんな!」

「いや、少しくらい何かないの?」

「ないな!」


 なんでそんなの自信ありげなの?


「今まですぐに倒されてきたからな!」

「そこ、威張いばるところじゃないでしょ……」


 これじゃあ作戦考えるための材料がない。


「……ん?」


 ふと、私の脳裏にスポーツ公園での出来事が思い浮かぶ。

 たしか、あのとき。


「ねえベル」


 私は考える。今まで起こったことと、魔法少女オタクとしてたくわえた知識を総動員して。


「こういうのは、どう?」


 あるかもしれない。

 悪の組織私たちが勝てるかもしれない、戦い方が。

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