第19話 恐怖!ブラック企業の実態!

『この国を、私たちは改革してまいります!』

『今こそ求められているのは、労働者のための政策なのであります!』

『国民の皆さまにとって生活しやすい、働きやすい環境を、私たちは――』


 ぶつんっ。


「で、どないするっていうんや?」


 アジトに置かれたテレビの電源を消して、ベルは言った。

 その様子はあからさまに不機嫌。理由はわかってる、昨日の晩、私が魔法少女打倒の会議を強引に終了させたからだ。


「オレのやり方に文句があるっちゅうんなら、あんさんはさぞかしええ案があるんやろ?」


 机の上でごろんと寝転がりながら、挑戦的にこっちを見てくる。「組織を変えてみせる、なんて見栄みえを張ったことを言ったけど、どうせ無理だろう?」とでも言うように。


「じゃあくけど」


 だけど、私にも言いたいことはある。


「ベルは本当に今のやり方でやれると思ってるの?」

「やれるって、なにをや」

「魔法少女を、ホワイトリリーを倒せるって、本当に思ってるのかってこと」

「なに言うてるんや。思ってるに決まってるやr」

「今まで一度も勝ててないのに?」

「うぐ……」


 ベルが舌をかんだように黙る。


「せ、せやからこうして必死こいて対抗する方法を」

「無理やり徹夜させて考えて?」

「負けっぱなしやから、これくらいせんとアカンやろ」

「それでいい方法なんか出ると思う? 出るわけないよ」


 断言する。

 私にはわかる。

 だって、私は今まで、ありとあらゆる魔法少女アニメを見てきたんだから。


 画面の向こう側の悪役たちは、おバカなところはもちろんあるけど、宿敵たる魔法少女を倒すために、緻密ちみつな作戦を練り上げていた。そのおかげで、何度かは魔法少女に勝つことに成功している。

 まあ、勝ったのは一時的で、いつも最終的には負けちゃうんだけど。


「ほんならどないせーっちゅうんや」


 投げやりに言って、ベルはごろごろ転がる。しゃべってるセリフさえ聞こえなかったら、猫がかわいい仕草をとっているようにしか見えない。


「オレには根性とガッツでやるくらいしか浮かばへん。勝たれへんのも、みんなのやる気が足りてないくらいしか思い当たらんわ」

「……」


 なんだその精神論丸出しなスローガンは。この間テレビで見た「恐怖! ブラック企業の実態!」にあったブラック企業そのまんまじゃないか。


「仮にみんなで案を出し合うにしても、夜通しとかはダメだと思う」

「おお! ほんなら今は昼間やし、全員呼ぶとするか――むぎゅ」

「昨日の今日なんだからゆっくり休ませてあげないとダメでしょ!」


 なんのために私とベルだけで作戦会議をしていると思ってるんだ。これでまた呼び出されたら、ミカさんに橋本さんたちもたまったものじゃない。


「とにかく」


 言い聞かせるように、私は席を立って、


「会議をするなら計画的に、前もって予定を立ててしなきゃ。ベルの思いつきにみんなを振り回しちゃかわいそうだよ」

「……」

「わかった?」

「まあ、あんさんがそこまで言うなら」

「よし」


 ようやく折れたか。

 これでミカさんたちも少しは休息をとれるだろう。私も土曜日にわざわざアジトまで来た甲斐かいがあったってものだ。


「いやあ、それにしてもオレはうれしいで」

「なにが?」


 机の上で器用にあぐらをかくベルがにやけながら言ってくる。にやけながら?


「あんさんが打倒ホワイトリリーにここまで協力してくれるなんてな」

「わ、私はただミカさんたちが疲れ切ってるのがかわいそうだったからだけで」


 そりゃ魔法少女の敵を名乗るのなら、もっとちゃんとしろとは思ったけど。


「よくやく、悪の組織の一員としての自覚が出てきたってことやな!」

「はっ」


 はあ!?


「そんな自覚ないから!」

「ええんやで、謙遜けんそんせんでも」

「してません!」


 必死に否定するのに、目の前の黒猫はにやけ顔をやめない。今度はしっぽを引っ張ってやろうか。


「私、帰るから」


 これ以上いたらどんな余計なこと言われるかわかったものじゃない。

 くるりと背を向けると、ベルがやけに上機嫌な声で、


「せやせや、あんさんも幹部なんやし、そろそろハカセみたいなコードネーム名前決めようと思ってるねん。なんか希望があったら、また教えてーな」

「希望もなにもないから!」


 こっちは今すぐにでも悪の組織なんてやめて、魔法少女を応援する側に戻りたいっていうのに!

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