第18話 働き方改革!
「ねえベル」
「なんや」
「なんで私、またアジトに呼び出されてるわけ?」
放課後。もう日も落ちようという時間なのに、突然LINE電話が鳴って、ボロっちいビル……もといアジトの前にいる。まったく、お母さんへの言い訳を考えるヒマもなかった。
まあ、断れない私も私だけど。魔法少女オタクをバラされたらまずいし。
でもはっきり言って、今の私はそれどころじゃない。
乃亜さんからの「私も魔法少女が好き」カミングアウト。衝撃的過ぎて頭が追い付かない。
しかもその場のノリでLINEまで交換しちゃったし。
また連絡するね、って言ってたけど……。
未だに信じられない。
そして、それをわざわざ私に告げるのはどうしてなんだろうか。
ぐるぐるめぐっては同じところに思考が戻ってくる。結局のところ、考えても私だけでは答えはわからない。
「なにを言うてんねん」
エレベーターで4階に到着したところで、ベルは「はあ~」とため息をつく。
「悪の組織たるもの、招集にはすぐ応じる。基本やで」
「招集、ってことは何かあったの?」
それこそ、魔法少女ホワイトリリーとの戦闘が始まった……とか。
「
ベルは器用に前脚を振る。そして「とん」と入口のドアに触れると、自動ドアでもないのにどういう原理か、勝手に開いていった。
「今日はなあ……打倒、ホワイトリリーの作戦会議や!」
「え……」
だけど、オフィスの中はそんな高らかな宣言とは正反対の光景が広がっていた。
端的に言えば、つい先日歓迎会にいたメンバーが、ぐったりと倒れていたのだ。イスに、机に、果ては床に直接。
あ、ミカさんもとい、ハカセさんも倒れてる。
「うう、うう……」
「きゃっ」
え、なになに?
足元を見れば、床に倒れていたひとりが身体を引きずりながら這いつくばるようにして近づいてきていた。この人、たしか歓迎会でたくさんビール飲んでた人だ。
えーと、たしか。
「は、
「
橋本さんあらため田辺さん(間違えちゃってゴメンナサイ……)は、最期の言葉みたいに力を振り絞って言ってから、ガクリ、となる。
体調悪いなら、帰った方がいいんじゃないだろうか。
「なにしてんねん田辺!」
そんなことはおかまいなしにと、ベルが前脚で田辺さんの頭をぺしぺし。
「アジトでは変身必須やぞ!」
言いながらチラチラこっちを見てくる。いや、絶対変身なんかしないからね?
「そうは言っても、ベルさん」
「泣き言はええ! それで、案は浮かんだんか?」
「いえ……」
「そんなら居残りや! ちゃんとええ作戦を考えるまで、帰ったらあかんで!」
「……はい」
田辺さんはその場でうなだれる。というより
「ほんま、どうしようもないやつらやで」
「えーと、ベル。これは?」
作戦会議にしては、地獄絵図すぎない?
「言ったとおり、ホワイトリリーに勝つためにに案を出してもらっとるんや。せやけど、だーれもええ案を出しよらへん」
「はあ……」
言ってることはわかるけど、それだけならみんなこんなにぐったりしないのでは?
「いつからやってるの?」
「昨日の晩からや」
「昨日!? 晩!?」
え、なに? つまりはみんな徹夜ってこと?
よく見ればあちこちにレッドブルとかリポピタンDとか転がってるし、本当みたいだ。
「ベルさ~ん」
と、机でぐったりしているおじさんが声を上げる。
よし、今度は間違えないぞ。
「橋本さん!」
「あ、
「……」
「……」
妙に気まずくなった空気を、おかまいなしとばかりにベルが
「んで、どうしたんや」
「その……さすがに帰らせてもらえませんか……?」
机から起き上がれないまま、二階堂さんは消え入りそうな声で、
「今日だって会社休んでますし、嫁と子どもも心配するんで……」
え、二階堂さん家族がいるんだ。なら徹夜なんてしてる場合じゃなくて早く帰った方が……
「あかん!」
ベルは前脚で×印をつくると、
「そんなんやと、ホワイトリリーに勝てへんで! 負けっぱなしのオレらが勝つには、もっと休みなく勝つ方法を考えるしかないんや!」
「でも、さすがに徹夜だと」
「だってもヘチマもあらへん」
ベルはしやなかな身のこなしで倒れている人たちのところに移動してはぺしぺし、移動してはぺしぺしして起こす。
そして私の近くまで戻ってきて、
「さ! 千秋も来たことやし、ひとり3案は出してもらうで! その中からいいやつを会議するんや!」
……違う。
「ぼーっとしてんと、あんさんも考えてもらうんやで」
こんなの、悪の組織じゃない。
「ん? どないしたんや?」
魔法少女の宿敵たる、悪の組織じゃない!
「……ベル」
「ん? なんや千あ――むぎゅおふ」
両手でベルの頬をはさむ。そして言う。
「今日の会議は終わり。みんな帰ってもらう。いいわね」
「な、なんや千秋。そんなワガママはあかんで――」
「い・い・わ・ね?」
「……はい」
その場でうなずくベルから手を放す。二階堂さんたちは「ほっ」と胸をなでおろしていた。
「……決めた」
「え?」
輝かしい魔法少女の敵なら、もっとふさわしくなるようにしないといけない。
このままじゃ、魔法少女の敵を名乗る資格すらない。
だったら、
「――私が、この組織を変える!」
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