第17話 校舎裏イベント発生!

 校舎裏への呼び出しには、どんなケースがあるだろう。


 大好きなあの人に告白するとき?

 なにか秘密を打ち明けるとき?

 気に入らないやつに痛い目を見せてやるとき?


 いずれにせよ、私がこうして呼び出された理由は、考えるまでもない。火を見るよりも明らか、3つ目だ。


 放課後、四六時中じめじめしているその場所へやってきたはいいものの、そこには誰の姿もなかった。

 まだ……来てない?

 仲間を引き連れるのに時間がかかっているのか、それとも呼び出し自体が嘘で、どこかで私がひとりでいるのを笑いながら見ているのか。もうこの際どっちでもいいけど。


「……」


 正直、帰りたい。

 だけど勝手に帰ったら、あとが怖いのも事実。おもに『私の誘いを断るなんていい度胸だなあ、ああん?』的な。

 とどのつまり、私はここで乃亜のあさんがやってくるのを待つしか選択肢がない。


 よし、少しでも楽しいことを考えよう、そうしよう。


 先週のプリピュア……あれは神回だった。最後に勝つって信じてても、見ててハラハラしちゃう。まさに魔法少女アニメ! ってかんじ。

 プリピュアといえばこの状況、前にアニメで見たことあったなあ。何話だったっけ……あっそうだ、第46話だ!


 あれも神回だったからよく覚えてる。冒頭から、主人公の友だちの女の子が校舎裏に呼び出されるシーンで始まるんだ。それこそ今みたいに。

 たしか女の子は、クラスメイトの不良女子に詰め寄られて、うっかり主人公が魔法少女だって秘密をバラしちゃうんだ。それでトラブルが起きて――


「あ、そうか」


 ってことはバラさなければいいんだ。言わなければいいんだ。私が魔法少女好きだってことを。

 だって乃亜さんにクリアファイルを見られたのは、あのときだけ。しかも周囲には私と乃亜さんしかいなかった。


 つまり、証拠はないんだ。クリアファイルだって、今は私の部屋。ちゃんとケースに入れて保管してある。


「……よし」


 希望の光が見えてきた。なにを聞かれても、しらを切ればいいだけ。


 プリピュアなんて知らない。

 プリピュアなんて知らない……。

 プリピュアなんて知らない…………。


「ちーちゃん、遅れてごめんね」

「ひゃっ」


 必死に念じていると、背後から私を呼ぶ声。


「の、乃亜さん」

「えへへ、先生につかまっちゃって」

「あ、うん……」


 照れ笑いを浮かべる。相変わらずかわいい、さすがクラスのスクールカースト最上位。


「もしかして、待たせちゃったから怒ってる?」

「そ、そんなことないよ。私もさっき来たとこだし……」


 ダメだダメだ、かわいさに見とれてる場合じゃない。なにを聞かれても、私は強い意志でノーと答える。がんばれ私。


「あ、それとも用事とかあった?」

「ううん。だ、だいじょうぶ」

「ていうか、ちーちゃん部活は入ってたんだっけ?」

「は、入ってないけど……」


 隣に立って首をかしげながら、乃亜さんはいてくる。

 よくわからない質問ばっかりだし、どういうつもりなんだろう。

 いやいや、余計なことは考えるな、私。例のクリアファイルの件以外の話は適当に流して、時間が過ぎるのを待てばいいだけ。


「ちーちゃんって、けっこうかわいいもの好きだよね? 筆箱とかもかわいーし」

「そ、そうかな」

「あとそういえば、この前持ってたクリアファイル、かわいかったよねー」


 きた!

 さあこい、どれだけ問い詰められても、私は耐えてみせる!


「あれって、なんだっけ? 魔法少女キュアキュアだっけ?」

「プリピュアだよっ!!!!」


「・・・・・・あ」


 やっちゃったああああ!!


 あれだけ自分に言い聞かせてたのに、こうもあっさり墓穴を掘るなんて!

 ああ、さようなら私の平穏な学校生活。

 そしてこんにちは、バカにされる毎日。


 でもいいんだ……プリピュアの名前を間違われて訂正しないなんて、ファン失格だし。

 私はファンの鑑として生き、死んでいくんだ……社会的に。


「あはは、やっぱり!」


 案の定、乃亜さんは笑っている。


 ……あれ?

 だけどそれは、嘲笑でもなければ、ひきつったような笑みでもなかった。

 ただ単純に、楽しくて――うれしそうな。


「やっぱりちーちゃんもプリピュア好きだったんだね」

「え……」

「好きじゃないの?」

「えっと、その……」


「はい……好きです」


「よかった~」


 私が答えると、乃亜さんは胸をなでおろした。なでおろした?


「あのね?」


 乃亜さんは言う。


「今日はちーちゃんに伝えたいことがあって、来てもらったんだ」

「は、はい」


 くるり、とターンするように、華麗に私の前に立つ。

 そして、こう言った。


「私もね、好きなんだ。プリピュア」

「……はい?」

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