第15話 もしかして…バレちゃった?

 月曜日は朝からずっとあくびが止まらなかった。


 それもこれも、全部ベルのせいだ。アジトに行ったり、歓迎会かんげいかいしょうして居酒屋いざかやに連れていかれたり。なんとか居眠りせずに放課後までえることができた自分をほめてやりたい。


「ふあ……あ……」


 2次会に行ってたら間違いなく授業中は夢の中だっただろう。断固拒否してよかった。

 ともかく、今日は早く家に帰ってゆっくりしよう、そうしよう。


「あはは、すごいあくびだねー」


 瞬間、身体がびくりとして目が一気に覚めた。だって、教室で私に声をかけてくる人なんてほとんどいないし。


「ゆ、夢……じゃなくて、乃亜のあさん」

「寝不足は肌に悪いんだよー? なーんてね」


 クラスのアイドル、夢崎ゆめさき乃亜は小さく笑うと、


「かくいう私も眠くって……ふあ」


 口元を手で隠しながら言う。あくびひとつとっても、私と違ってかわいい。


「動画とか、ついつい見ちゃうんだよねー」


 乃亜さんのことだから、きっとかわいい動物動画とかだろう。


「ちーちゃんは動画とかテレビとか、見ないの?」

「わ、私はあんまり、かなあ」


 魔法少女なら、動画もテレビも穴が開くほど見てるけど。なんて言えない。


「えっと、それで……どうした、の?」

「あ、そうそう」


 言って、手に持ったプリントの束を見せてくる。


「数学の宿題、集めてるんだ」


 そういえば今日は乃亜さんが日直だったんだっけ。


「あ、ありがとう。ちょっと待ってね」


 プリピュアに没頭ぼっとうしすぎて宿題を忘れる、なんてことはしない。クラスで変に目立たないためにも、宿題はそつなく終わらせておくことは必須ひっす。幸いにも、勉強はそこまで苦手じゃないし。


 カバンをごそごそ。たしか昨日の夜にクリアファイルに入れておいたはず。

 あ、あった。


「はい、これ」


 取り出したものを、渡す。


 魔法少女プリピュアがでかでかと印刷されたクリアファイルを。


「・・・・・・」


 あ、あれ?

 時間が止まったみたいに硬直する私。ついでに思考も少しの間停止する。


 し、しまったあああああああ!!!!


 よみがえる記憶。昨日はすごく眠たくて、近くにあったクリアファイルに――この間買ったCDの特典のやつに入れちゃってたんだ!

 大事にしまっておく特典を普通に使うなんて、なんてもったいない……って今はそれどころじゃなくて!


「えっ……? これ……」


 ほら乃亜さんもきょとんとしてるし!

 まずいまずいまずいまずい!


「あっ、ま、間違えちゃった。これ、妹のやつかなあ、あははー」


 素早くプリントを取り出し、クリアファイルをカバンに戻す。ちなみに、私に妹はいない。


「あははー」


 ダメだ、かわいた笑いしか出てこない。

 そして、乃亜さんがぽつりと、


「……ちーちゃん、まさか」


 ダメだ! ごまかせてない!


「わっ、私! 用事あるから、帰るね!」

「あ、ちーちゃん! 待って」


 呼び止めようとする乃亜さんを振り切って、私は一目散に教室を出ていく。

 そして全力ダッシュ。期せずして、帰宅時間の最短記録を更新したのだった。

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