第14話 (株)悪の組織は、アットホームな職場です

「私は悪の怪人が、好きで好きでたまらないの!」


 ハカセさんこと、鶴崎つるさき美影みかげさんは高らかに宣言すると、ぐびり、とビールを飲んで、


「かっこいいよねー、あの独特のフォルム。今までいろんな特撮とかアニメ見てきたけど、プリピュアは特に敵役も作り込んであってさー」


 うっとりした表情で話すお姉さん。

 え? え? プリピュアが好きって……悪役好き!?


「ほかのみんなも、悪役が好きだから組織に入ったんだよねー?」

「ああそうさ! あの戦闘員の真っ黒なフォルム! イカしてる!」

「しなやかな動きで主人公たちを追いつめるのがいいんだよな!」

「……」


 あ、あれえ?

 もしかして魔法少女が好きなのって、私だけ?

 もしかしなくとも、完全にアウェー?


 ってベル! 隣でニコニコするな! もとはと言えばあんたのせいなんだから! あとでしっぽ引っこ抜いてやるから!


「あ、それはそうとー、千秋ちゃん」

「はいはい」

「普段は名前でいいよー? 変身してるときはハカセだけど」

「え、でも、お姉さん歳上ですし、なんて呼べば」

「いいのいいのー。歳なんてここじゃ誰も気にしてないからー。気軽にミカって呼んでくれればいーよー」


 おじさんたちもそう呼んでるしー、と笑うお姉さん。


「じゃ、じゃあ」


 ミカという呼ばれ方と、お姉さんの間をとって、


「み……ミカお姉ちゃん?」

「……」

「えっ……と?」


 ダメかな……。

 なんて思っていると、


 むぎゅうううっ!


 私の視界は、初めて会ったときみたいにおっぱいに埋め尽くされる。


「え、え?」

「やっぱ千秋ちゃんかわいいー! ね、今日お持ち帰りしてもいい?」


 目がさっき怪人のことを話してたときよりも怪しく光ってる。なんか息もハアハア荒いし。


「や、やっぱりミカさんで! さっきのなしで!」


 ハアハア言うミカさんを引きはがすのに、しばらく時間がかかったことは、言うまでもない。

 組織で唯一の常識人だと思ってたのに……そうでもなかった、のかな?



「それにしても、ベルさーん」


 歓迎会が始まって1時間くらいが経ったころ。おじさんのひとりが何杯目かわからないビールを飲み干して、赤くなった顔で黒猫の名前を呼んだ。


「なんや?」

「もう少し休みとか、もらえないんすかね? ほら、この間の出動もいきなりでしたし……会社抜けてくるの大変だったんすよ」


 おじさんは、心なしかぐったりしているようにも見えた。会社、ってことは普段は仕事してるってことなんだろう。


「なに言うてんねん!」


 が、ベルは同じようにビールでった顔で、


「魔法少女をたおすチャンスはいつ何時やってくるかわからんねんで! いつでも出動できるようにしとくんが当然やろ」

「そうは言っても、ウチは妻も子どももいますし」

「大丈夫や! やりがいさえあれば、どんなピンチも乗り切れるんやで!」

「へーい、わかりましたよー」


 しなしな、と机にもたれかかるおじさん。そんなおじさんを放っておいて、ベルは熱く語っている。


「まったく、オレはこんなにもアットホームな組織づくりを心がけてるんやで! 休みも報酬も、やりがいさえあれば十分や!」

「……」


 聞いたことある……夜遅くに帰ってきたお父さんが言ってた……。


 悪の組織って……ブラック企業じゃん!!

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