第13話 歓迎会といえば居酒屋!…なの?

 夕方6時に再集合。ベルはそう言ったものの、集まる場所はアジトじゃなかった。


「ここ、だよね……?」


 本日二度目のセリフ。私は、駅前の居酒屋いざかやさんの前に立っていた。


 歓迎会かんげいかいって言ってたけど……。

 居酒屋さんなんて初めて来たし、どうしていいかわからない。そもそも未成年の私が入っていいのかな。


「とりあえず中の様子だけでも」


 そろり、とお店の入口まで近づく。暖色系の照明と、鼻をくすぐるおいしそうな香り。傍らの看板には、今夜の予約団体の名前がいくつも書かれていた。


 その一番端には、


『(株)悪の組織ご一行様』


「ってまんまじゃん!」


 あれ、今日の私つっこんでばっかりじゃない?


「いるあっしゃいませええ!」

「きゃっ」


 と、私の存在に気づいたのか、店の中から金髪のイケイケな店員さんが出てきた。


「おひとりさまですかあ!?」

「えっと、あの」

「ご予約のかたですかあ!?」

「その……そこの看、板の」

「あいてぇいるカウンターへどうぞおぉう!」


 ダ、ダメだ。ただでさえ人と話すのが得意じゃないのに、大人が来る居酒屋に来てるって思うとなおさらだよ!


 ど、どどどうしよう。このままじゃ私、お酒飲まされて、タイホされて、牢屋ろうやに入れられちゃう……。ほんとうに悪い人になっちゃうよ!


「あー、千秋ちあきちゃん!」


 と、店の中から私を呼ぶ声。


「やーっと来たー」

「お連れ様ですかあ!?」

「そーだよー」


 手を振って店員をあしらったその人に、私は見覚えがあった。


「お、お姉さん!?」


 そう、アニメイトで会った、スタイル抜群バツグンのお姉さんだったのだ。


「こっちこっちー」

「えっ? あ、その」


 どうしてお姉さんがここに?

 ていうかどうして私の名前知ってるの?


 き続ける疑問にあっぷあっぷする暇もなく、お姉さんは私の手を引いて店の奥へと連れていく。

 ていうか歩くたびにおっぱいが揺れている。ぶるんぶるんだ。


「おーい、千秋ちゃん来たよー」


 一番奥の座敷に到着したところで、お姉さんが声を上げる。直後、聞きなれた関西弁が私を迎える。


「よーやっと来たか。遅いで」


 そして続いて、


「「「おつかれさまでーす!」」」


 大人の男の人たちの声。

 おじさん? おにいさん? たちが4人、テーブルを囲んでいる。どの顔を見ても、私に見覚えはない。席は間違えて……ないよね。しゃべる猫がいるんだし。


「え? えっと、これって……」

「じっとせんと、はよ座りいや。今夜の主役はあんさんなんやで」


 テーブルの端にちょこんと座ったベルが、前脚で空いた座布団――誕生日席を指す。


「千秋ちゃんは未成年だからー、オレンジジュースかなー」

「あ、はい。ありがとうございます」


 隣に座ったお姉さんがほほ笑んでくれる。この状況で、お姉さんだけが癒しだ……。


 ほどなくして店員さんが飲み物を持ってきてくれる。ちなみに私以外はみんなビールだった。


「ほな、全員そろったことやし……かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」

「か、かんぱい……」


 勢いにつられ、私もグラスを差し出す。かちん、と小気味のいい音が響いた。


「っっぷっはああ!」

「うめえー!」

「生き返る~!」


 おじさんたちが、CMで見るみたいに爽快感あふれる表情になる。


「かあ~っ! しびれるようなうまさやでホンマ!」


 お皿に入れたビールを舌で器用になめて叫ぶベル。猫ってビール飲んでも大丈夫なのかな。


「ほんならあらためて、ようこそ悪の組織へ!」

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんや、食べもんはそのうちくるから待っときいや」

「そういうことじゃなくて!」


 大事な説明がまだされてない。


「この人たち、誰なんですか?」


 お姉さんは一度会ったことあるけど、あれはベルと出会う前だ。ベルがいなかったら、知らないおじさんたちの飲み会にひとり放り込まれたようなもの。


 と、お姉さんが申し訳なさそうに頭をかく。


「あーそかそかー。元の姿で会うのは初めてだもんねー」


 元の……姿?

 てことはもしかして!


「とう」


 ぼんっ! かけ声とともにお姉さんが煙に包まれる。そして煙の中からできたのは、


「ハ、ハカセさん!」

「そのとおりじゃ」


 再び煙を出すと、姿はさっきまでのお姉さんに戻っている。


「私の名前は鶴崎つるさき美影みかげ。組織ではハカセって呼ばれてるよー」

「は、はい」

「それからこっちにいてるんが、戦闘員のみんなや」

「田辺です」

「二階堂です」

「橋本です」


 おじさんたちがそれぞれ、笑顔で自己紹介してくれる。


「そんなかんじでー、私たちは基本、組織にいるときは変身してるんだよー。ごめんねー、わかりにくくて」

「あ、いえ……」

「ちなみにオレはこれが本当の姿やからな?」


 ベルが自慢げに二本足で立つ。うん、どうでもいい。


「そういえば、ボス……さんは来ないんですか?」

「「「……」」」

「あれ、私変なこといちゃいました?」

「あははー、ボスは忙しいお方やから、いつも来ーへんねん」

「そうなんですか」


 なんだかよくわからないけど、そういうことなんだろう。


「それはそうと! 千秋ちゃん!」

「は、はい!」


 がしっ、とお姉さんが私の両手をつかむ。おっぱいぷるん。

 そしてキラキラした眼差しで、


「千秋ちゃんも好きなんだって? プリピュア」

「あっ……」


 そうだ。私も聞きたかった。


「そ、そうなんです! お姉さんもですよね?」


 やっと話せた! 今までひとりで楽しむだけだったから、魔法少女好きの人と知り合えたのは悪の組織に入って唯一のうれしいことかもしれない。


「よかったー、話ができる人が……それもこんなかわいい子が来てくれてー」

「かっ、かわっ!?」

「今まで酒飲みの猫とおっさんしか組織にいなかったから、お姉さん大喜びだよー」

「おいおーい、ミカちゃーん。それはないだろー?」

「あははー、ごめんごめーん」


 だけど、ひとつ疑問が残ったままだ。


「お、お姉さん」

「ん?」

「その……魔法少女が好きなのに、どうして悪の組織の一員をやってるんですか?」


 私と同じように、嫌々仕方なく怪人づくりをさせられてるんだろうか。


「あははー、違うよ千秋ちゃん」


 間延まのびした声と、お姉さんはこう言った。


「私が好きなのはー、悪の怪人なの」

「へ?」

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