第2話 出会い ~すべてのはじまり~

 帰り道、思い浮かぶのはさっき出会ったお姉さんのことばかりだった。


「やっぱり、お話したかったなあ」


 魔法少女趣味が、ひとりで楽しむべきものだという覚悟はしていたけど、やっぱり語り合える人がいるとうれしい。


 でもだからって、クラスで「私、魔法少女好きなんだ」なんて死んでも言えない。

 そんなことをしてしまえば、私の平穏な学校生活は崩壊まっしぐらだ。


 うん、今はひとりで楽しむ。それでじゅうぶん。


「ん?」


 そんな自問自答をくり返しているうちに、私は児童公園の中を通っていた。別に遊ぶとか寄り道とかじゃなくて、単に家までの距離をショートカットできるからだ。


 そこで私は、あるものに目が留まった。


「猫……?」


 ベンチの上に、猫がいる。真っ黒い猫。野良猫かな。この辺じゃあんまり見かけないけど。

 なんとなく興味がいて、近づいてみる。


「……って」


 めっちゃぐったりしてるじゃん!


「だ、大丈夫?」


 猫に人語じんごが通じるわけもないのに、話しかけてしまう。「にゃおー」という力のない鳴き声が返ってくるだけだった。

 見たところ外傷はない。ケガをしてるわけじゃなさそうだけど。


「こういうときってどうしたらいいんだろ」


 動物病院? でもお金かかるだろうし。財布には小銭しか入ってないよ。

 誰か大人を呼ぶ? でも周りに人はいないし。

 ああもうどうしたら!


 名案が思いつかない自分にイライラしていると、


 ぐぅ~。


「……」


 小さな、かわいらしい音。目の前の黒猫からだった。


「……もしかして、お腹いてるの?」

「にゃお~」


 どうやらイエス、らしい。

 それなら私にもなんとかできるかもしれない。


「ちょっとだけ待ってて!」


 そう言い残し、私は公園を離れる。行き先は近くのコンビニ。キャットフードを買うと、超特急で戻ってきた。


「はい、これ」


 一緒に買った紙のお皿にキャットフードを開けて、黒猫の前に置く。すると間髪入れずに、勢いよくかぶりついた。


「おいしい?」


 かがみながらくと、黒猫は「にゃ」と短く鳴いてすぐさま食事に戻った。本当にお腹が空いてたんだ。それともマグロ味が好きなのかな。


「でもよかったあ」


 胸をなでおろす。これで元気が出なかったらどうしようかと思った。


「にゃお」


 黒猫が顔を上げてこちらを向く。いつの間にかお皿の上はきれいになっていた。


「にゃ」

「ひゃっ」


 と、私のふくらはぎに身体をスリスリしてくる。ちょっとびっくりしちゃって、横に置いたカバンが倒れて、中身――さっき買ったCDとクリアファイルが出てしまった。コンビニで財布を取り出した時、チャックを閉め忘れていたみたいだ。


「わっ、と、っと」


 あわてて例のブツをカバンに戻す。まあ黒猫相手なら見られても問題ないんだけど。


「もー、びっくりさせないでよ」


 なつかれたってことなのかな。猫は嫌いじゃないし、悪い気分じゃない。

 どれ、少しでてやろう。


「にゃーお」

「あ」


 手を伸ばしたところで、するりとかわされてしまう。

 むう。せっかく空腹のところを助けてやったのに、ちょっとくらいいいじゃないか。

 でもま、猫なんてそんなもんか。


「……やっと見つけたで」

「え?」


 不意に、どこからともなく聞こえた妙なイントネーションの言葉。慌てて周囲に首を振る……も、人影はない。


 そしていつの間にか、黒猫の姿もなくなっていた。


「……?」


 空耳、かな。まさかさっきの猫が……いやいや、猫だし。

 にしても関西弁の空耳なんて珍しい。


「まーいっか」


 キャットフードを片付けながら、私は首をかしげることしかできなかった。

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