第29話 秘密~Side story

 今日、懐かしい人に会った。


 彼女の姿はファッション雑誌でも良く見かけていたので、モデルの仕事をしているのは知っていた。


 私が彼女のカウンセリングに関わったのは小学校5年から中学3年までの5年間。


 当時から、将来きっと美人になると思っていたからモデルになったと風の噂で聞いた時も驚きはしなかった。




 彼女はファミリーレストランで男性と一緒にいた。


 びっくりした。


 だって”あの雪菜ちゃん”が男の人と仲良く話をしているんだから……


 信じられなかった……



 久しぶりに会った彼女は、ファッション雑誌で見るよりも、もっともっと、ずっと綺麗だった。


 そしてその理由も直ぐにわかった。



「あ……雪菜ちゃん、恋してる」


 ……5年間彼女を見続けていたから私だから直ぐに分かった。


 雪菜ちゃんが、楽しそうに話をしている男性……


 彼と話をしている雪菜ちゃんの視線を見て直ぐに気づいちゃった。




 私は、あまりにびっくりして……そして嬉し過ぎて……涙がでそうになった。


 …… …… ……


 彼女は、中学くらいから男子生徒を怖れるようになった。


 それはきっと男子生徒の誰もが雪菜ちゃんに好意を寄せることが怖くなったんだと思う。


 だから中学時代の雪菜ちゃんは、一切男子生徒と関わることを拒否した。


 私は……私の力不足のせいで……ついに雪菜ちゃんが男子と話をしている姿をみることができなかった。


 そんな雪菜ちゃんが……男の人に恋をしている……




 私は二人を見て……そのあまり嬉しさに……つい「良かったね」と口に出てしまった。


 フフフ……彼はなんのことか分からずキョトンとしてたけど……



 彼は、結構見栄えのいい好青年だった。


 彼は雪菜ちゃんの小さな表情の変化を目敏く読んで、すぐに席をはずしてくれた。


 そんな彼を見て、「ああ、これは雪菜ちゃん好きなるな」と思った。



 私も我慢できずに、おばさん根性で雪菜ちゃんに直接聞いちゃった。


 分かってたんだけど……直接雪菜ちゃんの口から聞きたかったから。


「雪菜ちゃん……彼のこと好きなんでしょ?」


 私がそう聞くと……雪菜ちゃんは、はにかみながら「うん」と頷いて真っ赤になってたっけ。


 その顔は……そう、私と会っていたころのあどけない、少女の頃の雪菜ちゃんの顔だった。




 帰り際、私はどうしても彼と話がしたくて……おせっかいだと思ったけど彼のもとに行ってみた。


 そして……私はがまんできなくなって……彼にも雪菜ちゃんのことが好きなのか聞いてしまった。


 もちろん……雪菜ちゃんの気持ちのことは黙ってた。


 そうしたら彼も……雪菜ちゃんを好きだと遠まわしに教えてくれた。



 私は安心して……また涙が出そうになった。


 ああ、やっと雪菜ちゃんが幸せになれる。


 はじめて、そう思えることが出来た。



 私の力不足で、彼女に向けられる男性の視線の原因をついに解決することができなかった。


 それが心残りで、ずっと気になっていた。


 でもきっと彼がそれを解決してくれる。


 私はそう直感した。


 そう思えて心から安心できた。



 だって私は5年間も彼女を見続けてきたんだから、その直感は多分当たっているという自信があった。



 雪菜ちゃんは彼、櫻井君を愛している。


 そして櫻井君も雪菜ちゃんを愛している。


 相思相愛。


 それを知っているのは……多分まだ私だけ。


 私だけの秘密。



 きっといつか、この日のことを二人に話す日が来るかもしれない。




 それはたぶん……




 きっとそう遠くない未来。

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