第16話:人の為に、動ける人。


 叩かれた背中がジンジンとする。


 ……ったく、瑞希のやろう馬鹿力だな。まるでゴリラじゃねぇか。最近、俺に遠慮がなくなってきている気がする。

 夫婦たるもの遠慮はいらないってか。まあそうだよな、遠慮はしなくてもいいけど配慮はしないとね。

 あれもあいつなりの優しさか。……ゴリラとか言ってごめんなさい。


 俺は幼稚園の門を抜けて、車を走らせていた。

 目的地はもちろん正樹くんの会社だ。

 

 あれから1時間が経ち、テレビ電話で中継をしながらも正樹くんは仕事に励んでいた。

 そしてGoサインが出たところで、俺は走り出したってわけだ。


 交通ルールの範囲内で飛ばす。ルールは守ろうね? ルールは破るためにあるとか言うけれど、破っていけないルールもあるから履き違えないように。


 幼稚園から会社までそんなに時間はかからない。片道15分ってところである。往復すれば、30分。

 大丈夫、問題ない。親子リレーは午前中の最終演目だから間に合うはず。

 時刻は11時。

 親子リレーは11時45分。十分に行って戻れる時間である。


 Bluetoothイヤホンを片耳につけて、正樹くんに電話をかける。


「もしもし! 今、向かってます。あと10分で着きます。そっちはどうですか」

「もう終わってる! 外にいるよ!」

「分かりました、なる早で行きますね!」

「急いで事故を起こさないようにね。ありがとう、気をつけて!」


 プツリと電話は切れ、イヤホンを助手席に放り投げる。


 さあ、ここからは俺のドラァイビィーング技術を見せてやろう!(AT車)


 シフトノブを小指から薬指、中指、人差し指とクネクネといやらしく遊び握り、ギアはDレンジからDレンジのまま、ゆっくりとアクセルを踏んだ。


「安全だぁぁいちぃぃぃー!」


 独り言と言うレベルの声量じゃなかった。自分でもどうかしてると思うくらいに声は大きかった。

 気分が高まってる。

 いざという時ほど、男は格好をつけたがる生き物。


 褒められたいとかかっこいいと言われたいとか、そういう承認欲求ではなく、ただ尽くしてやりたいという一心で。

 喜んでもらえるだけで嬉しくなるんだ。

 それ以上は何も望まないし、見返りを求めることもない。それが誰であろうが。


 人にした事は必ず返ってくる。


 良いことも悪いこともどちらも返ってくる。

 だったら、良い事をしてあげたいと思うのは自然だ。だから俺は人に良い事をしてあげる方を取る。

 当たり前の選択肢を取っただけ。別に褒められた事じゃない。みんなが出来る事をただやっているだけだ。

 あいつらの笑顔を見たら、こっちも幸せになるんだ。win-winの解決法でいけば、みんなが幸せだ。


「さぁ、いくぜぇぇぇ!!」


 自分の気持ちと車の走りは正反対だった。







 やっぱり緑はかっこいい。

 人の為に頑張れる彼はかっこいい。


 どうしてあそこまで頑張れるんだろう。

 朝も走って、仕事から帰って走って……一人の為に一人があそこまで頑張れる人を私は見たことがない。


 私が選んだ人は間違っていると最初は思っていた。

 だらしなくて、めんどくさがりで、服もダサくて、秘密が多くて……。

 でも、それでも彼を知っていけばいくほど、魅了されていった。

 優しい、かっこいい、大人の余裕(一応、一つ上だし)、あんなズボラなくせして体は鍛えていて、腹筋も割れている。

 ギャップ萌えだ。ギャップ萌え。いい? ギャップ萌えよ。

 いつだって自分本意で考えていると思った。自分が良ければそれで良いと。


 でも違った。私が困ってたら助けてくれるし、なんやかんや言いながらも私のわがままだって聞いてくれる。

 間違いを起こしそうになった時も正してくれた。

 ちゃんと考えてくれる彼は最高に良い旦那だと思う。お見合いの時とは大違い。

 人を見た目で判断するのは良くないと、十分に知った。


 自分の子供ができたら、必ずパパを見習いなさいと教えたい。

 あ、ファッションセンスは皆無だからダメ。絶対見習っちゃいけないわ。その他よ、その他。

 だからこうして他の子を見てると、私達に子供ができたらどんな家庭になるんだろうと妄想は膨らむばかりで、頬が緩む。

 ぶつくさ文句言いながらも手伝ってくれる緑が私の中の妄想の中にいる。

 ぶつくさ言うんじゃないわよ! 


 ……って、それは勝手な私のイメージだからキレたってしょうがないわね。


 自分の子供の運動会はもっと楽しいし、もっと熱くなれる気がする。もちろん緑と一緒に。

 今となっては、もう緑以外なんて考えられない。考える余地すらないわ。

 私はそれだけ彼にゾッコンなんだ。


 ……あー、早く帰ってきてくれないかなぁー。寂しーなー。喋りたいなーと自然に考えてしまう。


 口喧嘩みたいな、あるいは痴話喧嘩みたいな言い合いはよくあるけれど、それですら楽しい。


 とにかくまあ私は子供の運動会を見て、子供が欲しいと思ってし、緑が最高に究極に世界一にかっこいいと思ってるってことだ。


 言ったことは曲げない。


 そんな彼が大好きだ。

 帰ってきたら一緒に弁当を食べよっと。彼のことだ、間に合わないことは絶対にない。やり遂げるはず。



 …………ん? なんか今ゴリラって言われた気がする。あとで問い詰めるとするか。





*****




あとがき


こんばんは、えぐちです。


お久しぶりです。


今日は宣伝のあとがきです。

図々しくてごめんなさい笑


えー、今日から『四度目の夢で、君は死ぬ』を公開し始めました。


タイトルからすごい重そうに見えますが、そうでもありませんので気軽に読んでもらえると嬉しいです。

今までの作品とは違って、ライト文芸寄りです。

じわじわと楽しめるような作品だと僕は思っております。主人公の発言、ヒロインの発言、モノローグ、景色、色んなところに注目しつつ、皆さんに考察して欲しいなぁと軽い気持ちで言いたいのですけど、怖いのでやめておきます。←


では、この辺で失礼します。


結婚してからが、ラブコメ。もよろしくお願いします。


URL: https://kakuyomu.jp/works/1177354054989073006




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