エピローグ:挙式後の一幕と——
「もうっ! 本当に信じらんないっ!」
「誠に申し訳ございませんでした」
挙式が終わり、家に帰って来たのだが。
ご覧の通り、怒り心頭のご様子です。
まあ俺が悪いんだけど。
現在進行形で土下座中ですけど、何か?
瑞希はベッドに座りながら、ゲシゲシと俺の肩に足を置いて、踏んでくる。まるで女王様にお踏み頂いている気分だ。あらやだ、なんだか卑猥だわ。
ともかく今俺がされていることは普通だったらキレられる案件だと少しは理解していただきたいところ。ドМだったらそうでもないかもしれないが。
怒らずに、寧ろ謝っているんだから許してくれよ。
……だけども聞いてほしい。俺にも言い分があることを。
そもそもだ! あんな直前にあんなキスをしたら余計に緊張するもんだろ!
とろけそうな顔しやがってさ! こっちだって体温は爆上がりするし、顔は真っ赤になる。緊張で跳ねる心臓は拍車をかけるように上がるし、そりゃあもう心拍数だって計り知れないぞ。
だから俺だけが怒られるのは理不尽だ!
「勢いつけすぎ! そりゃ歯も当たるわ!」
だって顔をよく見られなかったし、キスしたら止まらなくなるかもしれんだろ。お前が。
それに……いや、何でもない。
「瑞希が歯を出してたんじゃないのか?」
「私は出っ歯じゃない!」
軽口を叩くと、肩に置かれた足はより勢いを増してゲシゲシとされる。
……痛い痛い。
「もう終わったことだし、気にしたってしょうがないだろ? もはやいい思い出だ」
「そんな都合よくできない! 一生に一度の晴れ舞台をよくもまあ抜け抜けといい思い出とか言えるわねっ!」
「だから本当にごめんって謝ってるじゃないか……何したら許してくれるんだよ……」
興奮冷めやらぬ瑞希には、何を言った所で聞きやしないだろう。もうこんな事も慣れてきてしまった。
……慣れたくないんだけどね?
「うーん、そうね。じゃあ今度デートして?」
「そんなんでいいの?」
「もっと大層なことをお願いしてもいいのかしら?」
「いえ、それでお願いします」
急にあっさりと引くなこいつ。
もしかして最初からそのつもりでいたのではないだろうか? ……瑞希ならありえない話じゃないな。
「ふんっ。分かったならいいわ。許してあげる」
「なんか俺だけが悪いみたいじゃん」
「は? 何か言った?」
「いえ、何も」
マジ怖えぇ。これ以上余計な事を言ったら、顔面に蹴りが飛んできそうな目つきをしてるくらいには眼光は鋭かった。
「あー、腰が痛いなぁー」
「マッサージしてあげましょうか?」
「じゃあお願いしようかしら?」
本当に腹立つ女だな、こいつ。
わざと言ってるだろ。俺の返事を分かってて。
「じゃあベッドから降りて寝転がれ」
「はーい!」
快活な声で返事をした瑞希はベッドから降りて布団にうつ伏せになって寝転がった。
そして俺は瑞希の上に跨り、尻の上に座る。
くっくっく。
ここからはこっちの反撃タイムだ。
もう瑞希は逃げられない! だぁーはっはっは!
「はやくぅー」
そんな呑気にしていられるのも今の内だ。
「では、参ります!」
「ちょっと? その言い方は何か嫌な感じが——ひゃんっ!!」
俺は瑞希の横腹をくすぐり回す。
「あひゃっ! ひゃ、ひゃめてぇ~!」
「問答無用!」
ジタバタと暴れる瑞希の脚を自分の脚で押さえつけ、制御する。
うつ伏せになっているので手をバタつかせても、こちらには大した抵抗の程でもない。
「んっっ! ちょっ! ひょんとにやめっ、やめへぇ」
「さっきの仕返しだ! ごめんなさい。私も悪かったですと言うまでやめない!」
そう、これはお互い様だから。俺だけが悪いとか言わせない。
俺はせこい人間なのだ。はっはっは!
「ごめんなひゃい! わたしゅもわりゅかったでしゅ!」
「あ? 何て言ったかよく聞こえないわ。もう一度」
「鬼! 緑の鬼!」
何と言われようと知ったこっちゃない。
あー、楽しい!
「ごめんなさい! 私も悪かった!」
振り絞って出された声。
流石にしっかりと謝罪の言葉を聞いたのでやめてあげよう。
「よろしい、やめてあげよう。ちゃんとマッサージに変えて差し上げよう」
「私が動けないことをいい事に!」
「なんか言った? お? 何て言った?」
「ごめ―—ひゃん! ひゃめてぇ!」
形勢逆転、さぞ滑稽。
こうしていると、何やかんや俺達は仲良くやっている。やっていけると思う。
例え愛し愛されの関係ではなくても、現状は紛れもない現実で。
瑞希といると楽しいし、瑞希もそう思ってくれているといいなと思う。
偽物だって、紛い物だって、嘘だって、なんだっていいのだ。
結果が良ければ、全て良し! 楽しければそれでいい。
きっとこれからも仲良くやっていけるだろう。
挙式までの長いようで短い時間を経て、ここまで変わった気持ちは誤魔化しようのない事実。
最初こそ嫌だったけど……そうだな——
今は——存外に悪くないと思えるようになった。
♢
こうしてしばらくの間、瑞希をいじめていると机に置いてあった瑞希のスマホが音を鳴らした。
「取ってぇー、お母さんかもー」
言われた通りにスマホを取ろうと手を伸ばす。
——だが、その手は止まってしまった。
その画面に表示されていた名前を見て、躊躇してしまった。
あまつさえ、その電話を切ってやろうかと思うくらいに。
『京介』
と、書かれた着信表示だったから。
何時しか寝言で言っていた男の名前。
「なんで取ってくれないのさー」
立ち膝で身を乗り出していたので、するりと抜けだした瑞希は起き上がってスマホを手に取った。
そして、画面を見て、顔を上げて俺を見る。
鳴り続けるスマホを片手に。
「……出ればいいじゃないか」
やっと出た言葉は、酷く冷たい声だった。
自分で思うくらいに、一瞬で楽しかった空気はピシッと凍ってしまう。
しまった。と思った俺はいつも通りの声音で言葉を続けた。
「出にくいなら、俺外すよ?」
「いや、いいの——本当に。私には……緑がいるから」
その言葉は嘘だと——瑞希の目が言っていた。
****
あとがき
こんばんは、えぐちです。
とりあえずこれで一区切りです! お疲れ様でした笑
まるで終わりの様な雰囲気ですけど笑
まだ続きますが、少しだけ次の投稿に時間が空きます。
ちゃんと考えたいので! でも1ヶ月とかそんな長くは空かないので、ご安心を! 意外と早いかもしれません!
そして、ここまで沢山の方に読んでもらい、とても嬉しく思います。
今回はお褒めの言葉が多くて、テンションが上がっているえぐちです。
どうですか? 本1冊分の文量を目指して書いてきたんですけど、それなりの重量感はあったでしょうか?
あるといいんですけど笑
ではでは最後になりますが、この『結婚してからが、ラブコメ』をここまで読んで頂きありがとうございます。
第二章からもどうぞよろしくお願いします!
あ、もう一つ! この作品ファミ通文庫大賞に応募してみることにしました!
だから何だよ! って感じですけど、報告したかっただけです。はい。
えぐちでした!
このあとがきはいずれ消しますので、ご了承を!
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