『音楽』な小説が読みたい。

『ボヘミアン・ラブソディ』(祝「地上波」初放送!)を見てて止まらなくなったので。


 ……いえ、ウマの方も書いてますし読んでます。

 芋づるでドロ沼ですが。


(こほん)

 

『ボヘミアン・ラブソディ』。映画館で観れる時期の公開でよかった、と今更ながら思いました。でも、できれば映画館でもう一度見たかった映画でもありました。


 映画館。長い事行ってません。


『夏への扉』も『峠』も『燃えよ剣』も『ヒノマルソウル』も『閃光のハサウェイ』(マジであのラストまでやんのかな?)も『ヤマト』の再編集版も全部見に行きたい。


 え? 『ヤマト』、再編集なのに見に行くのか。って?


 何を言う! 『ヤマト』は再編集の方が大体面白いんだぞっ!


(げほっ ごほふほほっほっ)


 ――そうじゃなくて。


「音楽」がテーマの小説を、本を整理しながら見つけられなくて悶えて探して――をいつも通りやっていこうかとおもいます。


「ああ、そういえばそんなのもあったなあ」


と共感いただければ本望です。


 なお、本エッセイは

『【カクヨム新テーマ発掘委員会】『音楽』を題材にした作品募集』

という公式自主企画とほんのりリンク程度であまり関係ありませんが、さっき見に行ったら面白お話も多く、すでに参加者も100本超えており、よいお祭りになりそうな予感がいたしますので、こちらを縁あってご覧いただき、紹介の音楽テーマの小説が琴線のどこかに触れた方はまず覗きに行って間違いはないかと思います。


 どうぞ一度、のぞきに行ってみてください。


 ◇◆◇


☆和楽器:小鼓


『鼓くらべ』(山本周五郎 作 短編集『松風の門』所収)


 加賀藩屈指の絹問屋の娘、お留伊は「ギヤマン」の様に怜悧な容貌で、勝気な性格の15歳の娘。

(今なら『なんというツンデレ。やるな周五郎!』とか言っちゃうところですが石束がはじめて読んだのはまだ汚れる前の純真な中学生の頃でした)

 彼女は小鼓の上手として評判が高く、わざくらべのために金沢のお城へ上がるべく稽古に稽古をついでいた。

 そんな彼女は、一人の老人が彼女の鼓を聞きに来ていることに気づく、「さては競い相手がこちらの様子を伺うためによこしたものか」と気丈に糺すがこの老人はどうもそうではないらしい。

 不自由な左手を懐にした見すぼらしい風体の旅人。だが、その純粋な賛辞がお留伊の心のどこか引っかかったのか。彼女は自分の鼓を聞くことを、旅の老人に許す。


 ……この『響け!ユーフォニアム』にハマった後で、『鼓くらべ』を読んだ時の居心地の悪さよ。

 今も中学国語の教科書にこれは載っているのでしょうか? 『響け!――』とか、あるいは『四月は君の嘘』とか『ピアノの森』とかのコンクール系のピアノの話とか読んだり見たりした中学生の人たちは、『鼓くらべ』の読書感想文でどんなことを書いたりするのでしょうか。

 北宇治吹部の生徒たちも一人や二人『鼓くらべ』知ってる部員はいるだろうし、厳しい練習の途中にふっと老人の打ち明け話のシーンが脳裏を過ぎったりしませんかね。

「音楽の演奏の優劣を決めるなんて、無意味だ」

とか。(作品テーマ全否定)

 まー、滝先生だったら


「そういう話は、気合で隣の人の楽器が破壊できるようになってからにしましょうか?」(櫻井孝宏ボイス)


って流しそうな気がしますが。


 漫画なら『ましろのおと』(羅川真里茂 作)とかがこの『鼓くらべ』と方向性が近いお話でしょうか?

『ましろ――』の「弦楽器だろうが打撃音で語るべし」みたいな和楽器の超絶演奏表現は、なんかもう、ギターやヴァイオリンの他作品よりも『鼓くらべ』テイストですもんね。

 

☆和楽器:横笛


『平家物語』 ※屋島の戦い 平敦盛と『青葉の笛』

『御曹子島渡』 (作者不明 御伽草子 室町時代)

  ※源義経が横笛(たぶん龍笛)の名手という設定 ピンチを切り抜けるスキル。 

『陰陽師』(夢枕獏 作)※安倍晴明の相方「源博雅」が笛(たぶん龍笛)の名手

『宮本武蔵』(吉川英治 作)

  ※お通さんの得意分野。これで旅費を稼いで武蔵を追いかける。健気。

『怪傑ライオン丸』(うしおそうじ 原作) ※笛で天馬を呼ぶ。OPも冒頭が横笛。


「横笛が出てきて、音楽が物語のメインではないけれど要所で存在感がある物語」で思い出すのがこのあたり。横笛はキャラクターとビジュアルの点では和楽器中最強と言ってよいのではないかと。厳密には龍笛と篠笛は違うのですが、物語の描写ではどっちも「笛」という扱いだったはず。


「美しい笛の音色」といえば、 そりゃもう歴史ものや時代劇の分野では人間はおろか、物の怪や無機物だって聞きほれるくらい人の感性に響くものとして登場します。

御伽草子の『御曹子――』では「竹を鳴らそう」と笛を演奏してたびたび絶体絶命のピンチを切り抜けたりしました。

 ある種の神秘性まで備えているかのようなアイテム。

 半端な出来の良心回路なんていかようにでもできようというもの。

 

 あげていけば沢山でてきそうですが、「あやかし」「不思議」を時に招き時に解放するとなれば、ここはやはり『陰陽師』でしょう!


 ご存じの方にはいわでもながですが『陰陽師』は夢枕獏作の平安伝記ロマンです。


 主人公は陰陽師 安倍晴明。「呪(しゅ)」を知り「式」を操る異能の人物。そして彼を友とする管弦の名手 源博雅。平安時代のほのぐらい闇の中で様々な事件が起こり、それが妖異であれば、彼らの出番――という物語。

 要所で源博雅が鬼からもらった名笛『葉二』が奏でられます。そのものずばりの『龍笛の章』という巻もありまして、音楽とは中々に縁の深いお話で――というか、こいつらずっと酒飲んでるな……じゃなくて。


 真っすぐで情け深く「よい男」な博雅は管弦に巧みなばかりか、深い愛情で楽器たちに接するものだから、楽器の方でも博雅に演奏してもらいたいばかりに彼以外のモノ――帝だろうが神様だろうが――が手にすると音さえでないなんてことになるありさま。

 彼は琵琶も篳篥も名人で知られていますが、『陰陽師』ではもっぱら笛の人で、その経歴とバックボーンが描かれる『源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと』(『陰陽師 飛天の巻』)その笛が美しいばかりでなく神威を纏って世界を圧倒するかのような『龍神祭』(『陰陽師 夜光杯ノ巻』)が笛の名手としてはカッコよいところ。むしろこれは「特別」なので、むしろ要所で興の赴くままに手に取って奏でる描写が自然で読んでる方も落ち着きます。


『陰陽師』の博雅三​位がスーパー系なら、リアル系は『宮本武蔵』のお通さん。


『宮本武蔵』のお通さんの「笛」(たぶん篠笛?)は旅の路銀を稼ぐくらいの技量があるのはもちろん、その調べは沢庵宗彭をして感動のあまり涙させ、柳生石舟斎をファンにするくらいのレベルです。手にする笛もまた無銘ながら名器で、生まれたばかり彼女が寺に置き去りにされていた時に帯に挟まれていたという「親の形見」。彼女はこの笛を杖とも頼んで苦しい旅を続けるのです。

 いわばこの笛は、お通にとっての「剣」なのです。


『宮本武蔵』の一番最初が「地の巻」ですが、この中の「縛り笛」でお通さんが笛を奏でるシーンが楽器演奏の描写シーンとしてまず圧巻。

 画面上唯一のオーディエンスであり解説者が沢庵和尚だという、ある意味贅沢なシーンで切々とお通の笛が描写されていきます。

(実はこのシーンは映像だと省略されてしまいがちで、『バカボンド』にもありません。

 もし興味をお持ちの方がいらっしゃれば是非原作小説をごらんください)


 弱く儚く、それでいて危険に自らつっこんでいく危うさもあるヒロインが武蔵における「お通」ですが、笛を手にした時の彼女の存在感は武蔵と対等以上。出番が限られている佐々木小次郎や吉岡清十郎よりもはるかに「作品世界の反対側で」物語を支えているキャラだったんだなあ、と改めて思えるシーンです。

 NHK大型時代劇版『宮本武蔵』(主演:役所広司)のメインテーマの冒頭がお通さんの笛(をイメージしたモチーフ)でした。のちに吹奏楽の課題曲として編曲された『Overture FIVE RINGS』もまたいい曲。これの冒頭も通称「お通の笛」です。吹奏楽だと、ピッコロの出番になります。


☆和楽器:琵琶


 和楽器終わってないのに、もうすぐ三千字だよ! どうすんだコレ!

 サクサクいかねば、また終わらなくなる(笑)


 ということで『琵琶』です。琵琶といえば琵琶法師。日本むかし話で誰もが知っている『耳なし芳一』。


 長門の国は赤間ヶ関の阿弥陀寺に寄宿する琵琶奏者、芳一。

 平家物語――ことに「壇ノ浦」を語らせたら右に出る者はいないほどの名手だった。この芳一が夜な夜な出かけることを寺の者が気づく。

 ひそかに後をつけてみれば……

 

という怪談の大定番です。


『耳なし芳一』のストーリー自体は山口県下関の阿弥陀寺を舞台とする民話、いわゆる「昔ばなし」ですが、今は小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)の再話(原典を翻案した小説)によって広く知られています。


 あらためて読み直してみて「面白いなー」と思ったところがありまして。

 芳一さん、最初に連れていかれた時に


「平家物語といっても長い話ですから、どれをやりましょうか?」

「最後の壇之浦やってもらえます? 一番盛り上がるので」


みたいな感じで、クライアントとミュージシャンの打ち合わせみたいなことをちゃんとやってるんですよね。

(奥さんがハーンに語って聞かせた時にもあったんですかね、この部分。原型になったお話を調べてないのでなんともいえませんけれど。もちろん、謎の依頼人の正体に繋がる重要な伏線でもあるのでないと困りますが)

『怪談』中の『耳なし芳一のはなし』ではその腕前を表現する時

「壇ノ浦の戦の歌を謡うと鬼神すらも涙をとどめ得なかった」

とありますので、芳一さんの十八番(オハコ)だったらしく、そこらへんも幸いでした。需要と供給の完全一致。演奏者を呼んだ人と呼ばれた琵琶法師との間で普通にこういうことが行われていたのだろうな、と想像できて楽しいです。 


 ただ、こうも思ったのです。


 この時、もし何の相談もしないでいきなり『扇の的』(高校の時、暗誦しました)とかやっちゃったら、芳一さん初日からエライ事になったんではないですかね。

『一の谷』とか『宇治川の先陣争い』とか『富士川の合戦』とか、そっちが得意な琵琶法師の人だって当時はいたはずですが、少なくとも、この『お客さん』には絶対ウケませんものね。

 あ。灌頂の巻。『大原御幸』演奏したら案外素直に成仏してくれそうな気がする。


 ……いえ。なにより、スベった上で無事に帰れたらそもそも耳とられることもなかったかもしれませんが。

 いやー、クライアントとの相談って大事。


 さて、耳なし芳一の影響がどこまであるかはともかく、琵琶といえば平家物語という印象がありますが、もちろん琵琶は「平家物語専門の楽器」ではありません。


 再度の登場になりますが『陰陽師』。

 管弦なら何でも得意な源博雅ですがなんでもかんでも彼が名人だとキャラがブレたり薄くなったりすると思われたのか『陰陽師』の琵琶担当は別の方になりました。


 これがなんと「蝉丸法師」! 最初に『陰陽師』の第一話『玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること』を読んだ時は、そのだいぶ前に姪とやった坊主めくり以来の再会で、名前を読んだ時に変な声が漏れたのを覚えています(笑)

 博雅にかわって琵琶担当になってたびたび逢坂山の庵から都に降りてきては、安倍晴明と酒を飲み、博雅三​位と合奏します。

 平家物語と耳なし芳一のイメージと切り離された琵琶は、その音色に哀調こそ感じさせるものの明るく美しい世界を寿ぐための音楽を奏でる楽器として描かれています。

 そして博雅と琵琶という話題で言うなら、やはり『月琴姫』のエピソードに触れざるを得ません!


 博雅の夢枕に美しい姫がたつ。何か彼に伝えたいことがあるらしいのだが言葉を発することができない。

 怪しむよりも何よりも「何とかしてやりたい」と晴明に相談する博雅。「どこぞの女子につれないマネをしたのではあるまいな?」と揶揄しつつも最近の博雅の近況を聞く中で晴明が気にしたのは、博雅が帝から拝領したという一面の「阮咸」――遠く唐の都でつくられた、後世の月琴の原型というべき異国の琵琶の来歴だった。


 ……夢枕獏だったらなんだって好きなんですが、これが山岳小説の、とかキマイラやサイコダイバーや餓狼伝やらの、この方の思考サイクルの中から生まれてくるのが本当に不思議――いや、きっと遡ったら一つに統合される……じゃないかともおもうのですが。


☆和楽器:その他


 三味線は、あれですよ『春琴抄』(谷崎潤一郎 著)を音楽の小説に入れてよいかどうかです。

 きっついお話で、でも「心に刺さるからこそ、傷が残る」わけで。

 それはこれが物凄い小説だというあかしなのだと思います。


 清冽で妖艶で、厳しくも寂しく、悲しげで苛烈な、登場の瞬間に二面性を内包する三味線という楽器。


 漫画やラノベだと『ましろのおと』とか『いとみち』が代表作でしょうか。



 太鼓はちょっと思いつきません。私が読んでないだけで、太鼓の小説や物語はいっぱいあるのだとおもいますが。

『火焔太鼓』好きだけど別に演奏するわけじゃないし、『しょじょ寺の狸囃子』は太鼓に入れていいもんかどうか。『嵐を呼ぶ男』はここに入るかな。ドラマーが主人公の物語です。


 『山の上の交響楽』(中井紀夫 著)に打楽器の演奏シーンがあって、叩く演奏ということだと『鼓くらべ』とこれ以外出てこないのです。

 あ。そういえば『ジャズ大名』(筒井康隆 著)に山鹿流の陣太鼓の使い手が出てきましたっけ(笑)



 ――ついに五千字超えたので強制終了。



 


  


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