六冊目 『カレル・チャペック短編集』



――ある夜。


昼間の配達業務ですっかり疲れてしまった、郵便局員の「コルババ」さん。

うたたねをしてしまって、気が付けば郵便局は鍵がかけられてしまっていました。

こりゃあいかん。と、途方に暮れていると……なにやら、話し声が。


そんなばかな。こんな時間に誰か仕事をしているハズが……


とこっそり物陰から覗いてみると、なんと郵便局員の格好をした小人たちが、手紙の整理をしているではありませんか――



……と、こんな場面から始まる『童話』をご存じの方はおられませんか?



 ◆◇◆



 最近、のぞきに行っては挨拶もせずに帰って失礼ばかりしている


桃もちみいか(@MOMOMOCHIHARE)さんの所で


『詩や童話の遊園地♪』

https://kakuyomu.jp/user_events/1177354054911194563


という楽しい催しをやっておられます。(7月9日現在)


「16日後終了 2020年7月25日(土) 23:59まで」という、諸般の事情で石束の日程的には、ちょっと参加出来そうな出来なさそうな感じなのですが、面白いお話が多いのでおいおい読ませていただきに行こうかなと思っているのです。


 なにより『童話』の二文字がじんわりと心に染みました。


『復活の日』のページを書いているであろう僕が全く別のジャンルのページを書いているかというと……なんというか、あまりに凄惨な滅びの作品世界にちょっと疲れたからです。


 正直、気分転換なのか現実逃避なのか、微妙な線なのですが。

 読書に疲れた時は、やはり読書に限ります。


「なんか、優しいお話が読みたい」


 そんなわけでふと手に取った表題作。東欧はチェコの作家さんによる『童話』。


『カレル・チャペック短編集』


で表題に「捜索対象」といういつもの文言が入ってないのは、探すまでもなく目の前にあったから。


 ………………


 ――って、あっかーんっ! こんなことばかりやってるから、本の整理が全然進まへんのやないけええっ!


◆◇◆


『童話』って、なに?


と聞かれて、どんな作品が思い浮かびますか?


 イソップ? グリム? アンデルセン? 宮沢賢治? 新見南吉?


 鈴木三重吉創刊の雑誌『赤い鳥』を出発点にするなら『蜘蛛の糸』『杜子春』『赤いろうそくと人魚』『ごん狐』『牛をつないだ椿の木』。

 あるいは、サン=テグジュペリの『星の王子様』 オスカー・ワイルドの『幸せな王子』の童話界の『二大王子』。

(個人的は「三大お姫様」もあるけれど、親指姫と白雪姫と、あと一人の名前は個人的に初恋の人なので言えません。墓場まで持っていく。なお、シンデレラはお姫様ではないので含まない)

『ピーターパン』『クリスマス・キャロル』は……長い、かな。短いのが条件とはいわないけど。マーク・トウェインの『王子とこじき』も童話ではないかなあ。

 シャルル・ペローの『長靴をはいた猫』はアニメを先に見て、爽快なヒーロー活劇かと思っていたら、絵本ではどう見ても猫が悪役っぽくて吹いた覚えがあります。


 童話とは何か? と考えたとき。


『ワンダーブック』の「なんでも金になる話」とか、イソップもそうだけど「何かしら教訓を込めた」メッセ―ジがあるべき……などと決めつけるのも、どこか線をひいてしまうみたいでいやだなあ、という気がします。


 でも「寓話」で横に置くのも勿体ない。

 とはいえ、逆に「何にもない」のも、物足りない。

 童話には、読後に残る「何か」――今風に言うなら『刺さる』何かが不可欠。


 かといって『グスコーブドリの伝記』(宮沢賢治著)の強烈さを子供の時に受け止められたかというと……難しい(笑)

「文字だけなら、絵本なら、アニメの映画なら」と、どの媒体で物語と出会うかによって、あのラストを受けいれられるかどうかも、違うんじゃないかと感じます。

 このことを強く意識したのは松本零士さんが手掛けた漫画版『グスコーブドリ』を見た時。僕にとってはあれが一番ラストが腑に落ちる『グスコーブドリ』でした。


『ドリトル先生航海記』は入れていいかなあ。ボーモン夫人の『美女と野獣』は、なろうとかカクヨムに子孫がいっぱいいるような(笑)

 メーテルリンクの『青い鳥』も好きなお話です。ベタ? いいじゃんベタで!

『ほら男爵の冒険』も、子供用の簡単にしたのなら童話に……入れるのは辛いかなあ。好きなのにむっちゃ好きなのに。脂身でカモを捕まえる話とか。


 トルストイの民話集は子供用の本でよんだのですが印象が今も鮮やか。

『イワンのばか』『人はなんで生きるか』『人にはどれだけの土地がいるか』

 このせいで、文豪トルストイが石束の中ではいまだに「昔話の人」です。


『十二月物語』は図書館の児童書のカウンターで尋ねたのに、見つからなかった悲しい思い出の本。のちに『森は生きている』というタイトルで再会しました。


『西遊記』とかどうしたらよいものか(笑)

 杜子春とかいけるなら神仙伝とか剪燈新話もいけるんじゃないかということになるし、中島敦の『名人伝』も入りそうな気がする。


 そもそも日本における童話の「はしり」とされる巌谷小波 著の『こがね丸』は、文章も情報の密度も今の『童話』の範疇には収まりません。内容は子犬が成長して仲間とともに両親の敵を討つという『銀牙 -流れ星 銀-』(古い)みたいな話なので(笑)少女はともかく少年には受けそうなきがします。案外、文章が簡単か否かというのは「童話」を定義する際に不可欠ではないかもしれません。


 ――話がそれました。


 アンデルセンは作品全部が有名どころばっかりですが、「あえて俺はこれを選ぶぜ」的に、あくまで個人的に選ばせてもらえるなら『しっかり者のスズの兵隊』なんか好きでした。

 悲しい話が多くて……という話をすると『月光条例』(藤田和日郎 著)のアンデルセン登場回を思い出します(笑)「月光」に出てくるキャラは全部童話でいいと思うのですが、ただ個人的には

「俺の『はちかづき』はこんなのじゃねええ!」

とか叫びたくなるマンガでした。

 いえ。作品自体はすっごい好きなんですが。

 …………

『はちかづき』もそうですけど。

 だいたい、物語の終わりで男とヒロインがくっつくんですよね。童話って。

 せつないなあ。


 わかってるよ! 大体そういうもんだよ! しってるんだよおおっ!


 (ごほん。)


 あと『ジャータカ』の『月の兎』とか、小泉八雲の『耳なし芳一』も童話ですよね? 童話に入れてもいいですよね? でも『アラビアンナイト』とかはどうしましょうか(心配そうに)。


 昔話と童話は近いし似ているようでイコールじゃないようにも思います。

 童話と児童文学もまたしかり。

 難しいです。


 まあ正直なところ「まんが日本昔ばなし」なんかを思い出すと『雪女』とか『鶴の恩返し』とか『カチカチ山』とか、全部童話でいいような気がしてきます。(乱暴)

 ――でも、一番好きだった『地獄のあばれもの』が童話でも昔話でもなく、実は上方落語の大作『地獄八景亡者戯』(「じごくばっけいもうじゃのたわむれ」桂米朝師匠の口演が好き)だと知った時はかなり驚かされたので、あの番組は油断ができません(何が?)


 ――で、カレル・チャペックですが(何事もなかったかのように最初に戻る)


 ◆◇◆


 カレル・チャペック(1890~1938)

 チェコ出身の作家でジャーナリスト。


 いちSFファンとしては、そして、いちアシモフ愛読者としては、やはり「ロボット」という言葉の生みの親である、という部分は外せません。

 ただ肝心の『R.U.R.』が戯曲のため、そもそも本を手に取りにくく一度拾い読みしようとした時も最初の方で挫折して全部読めてないので、同時に苦手意識も多少ある作家さんです。

 社会派の話というか、強いメッセージが込められた話を、その時はちょっと受け入れる姿勢になかったんじゃないかなあ、と思います。


 そんなチャペックですが、短編集の方は本当に面白い話ばかりで、お兄さんのヨゼフさんの挿絵がまたよいのです。あと


『カレル・チャペックの童話の作り方』


という、石束がいぜん童話のコンペに応募する前に(どうしたらよいかわからなくなって)こっそり読んだ本も楽しい本でした。


『長い長いお医者さんの話』

『郵便屋さんの話』

『長い長いおまわりさんの話』


が鉄板というか読んで損のないところだとおもいます。

『長い長いお医者さんの話』はかつては「ソリマンのお姫さま」がダントツで好きだったのですが、最近は別の話も面白いように思えてきました(笑)


 そしてなにより『郵便屋さんの話』!


 オチも、それから出会いをきっかけにコルババさんの世界が変わっていくところも、大好きでした。


 これはもう、石束の童話ジャンルの中ではベストの一作で、内容と文章忘れかけたら、落ち着かなくなってすぐに確かめたくなるくらい好きです。


◆◇◆


『童話』とはなにか?


 書く前に読む前に、こんなことを考えるのは変です。

 昔は――子供だったときはそんなハードルなしに、ページから流れ込むようにこちらの心に入ってきたはずなのに。

 楽しむために理由なんていらなかったはずなのに。


 今は、なんとなく向かい合う前に、考えているような気がします。


「誰かに何かを伝えたい」

「できるだけ優しい言葉で」


 たとえば、そんなふうに。


 自分にとっての『童話』がそういう風に変わってしまったのだとすれば。

 それは必然だと思う一方で、ひどく寂しい気もします。



 以上


 

 

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