第3話

昨日の事を、書くべき時が来てしまったようです。

自身の責任を書くには、この話はやはり避けては通れません。出来れば避けたかったのですが、このまま味わい深い思い出を綴るだけで終われば良いと思っていましたが、それでも書かなければならないようです。

意を決して書こうと思います。

それは皮肉な事に夕暮れでした。あの大好きな夕暮れでした。部長と先生は進路の事で別の場所へ、明智もどこに居たのかは知りませんが居なく、部室には私一人でした。私は本を読みながら暇を潰していました。その小説の内容はよく覚えています。羽の生えた人間が街を旅するお話でした。明るくゆったりとした時間が流れる町を気ままに探索する主人公に思い入れをし読んでいたと思います。

…すみません。話が逸れてしまいます。ですが許してください。書くには準備が必要なんです。


そう、わたしは部室に一人でいました。そこへその谷川が入ってきました。彼は部室を見渡すと低い声で「1人か」と訪ね、私の返答を待たずにいきなり私の両腕に掴みかかりそのまま床へ押し倒しました。私はその圧力と床へ倒された衝撃と恐怖で声が出ず、えずくような声をあげながら抵抗しました。ですがいくら登山で鍛えられていると言っても女性の腕では筋肉質の男性の腕は振り解けません。彼はそのまま私に馬乗りになり私の胸を掴みます。荒い息と小さな声で聞こえる好きだとか愛してるとか、そんな事が混乱する頭に入ってきました。恐怖で声は出ず、組み敷くように乗せられた重たい体はどかせません。片腕を掴まれた私は空いていた片手をどうにか伸ばし、倒れた机から転がってきた登山用の重い水筒を谷川の頭に向かって力いっぱいに振り抜きました。


明智、貴方はまだ山が好きですか?

あの後来た貴方は私の状況と倒れた谷川を見て、山に埋めようと一言言いましたね。

私は山が好きでした。あの雄大で壮大な重い土の塊が大好きでした。そう思っていました。

ですが、今はもうそうは思いません。

山は罪が埋められている場所だから。山は雄大でもなんでもなく、ただ私の罪が深く埋まっている、ただそれだけの場所になってしまったから。

あの時、スコップで山の表面を刺し穴を掘ったあの時、心の底の太い何かがザクりと切れる音がしました。


遺体を山に埋めた後、私は一人自首しようと考えていました。何故埋めた後なのかは、もう覚えていません。あの時はなにか夢を見ているような、ぼんやりとした記憶の断片しか残っていないのです。

自首を考えたのは、この罪は裁かれなければいけない罪だと考えたからです。悪いのは私ではなく谷川であり、私はただの被害者だとはあまり思いません。

死は死であり、罪は罪です。私は私の贖罪の為に自首を考えていました。ですが明智、貴方は私のことを手伝ってしまった。私が自首をすれば必ず貴方も司法のお世話になるでしょう。それはいけないと、そして嫌な事だとそう思います。

何より、私の心を動かしてくれる物はもうありません。何もありません。唯一好きだと言えた山は昨日の夜掻き消えてしまったから。私の理想の山は死体と一緒に土に埋められてしまったから。

なので、私は贖罪と、諦観のために死を選びます。死が1番綺麗で、健全だから。


この手紙を公表するかどうかはあなたに任せます。

明智、今までありがとう、そして、さようなら。

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