4話 「あれ? アヤト、ミルクティーなんて飲んでたっけ?」
「あれ? アヤト、ミルクティーなんて飲んでたっけ?」
土曜日の放課後、僕が何んとなしに飲んでいたペットボトルのミルクティーを見て、ミヤコが不意に言った。
ミヤコは幼馴染で、今では僕の彼女だ。
背はそれほど高くはないが、可愛らしくて、細くて、学年の中ではトップクラスの美少女と言われている。決して頭は良くないが、ちょっと天然も入っていて、可愛いと僕も思っている。
彼女が茶色がかったセミロングの髪に、今日はオシャレに髪留めをつけていた。きっと、この後映画に行く約束だったからだ。
そんなミヤコが、やや怪訝そうに僕を見つめていた。
ミヤコとは、幼稚園からの付き合いで、僕の好みは、なんだって知っているはずだった。そう、
「ああ、うん⋯⋯最近ハマっちゃってて」
彼女の瞳を見ていられなくて、僕はそっと彼女から視線を外した。
「そうなの?」
ミヤコは不思議そうに首を傾げた。
僕は嘘を吐いていた。ミルクティーにハマっていたわけではない。そもそも、僕はこんな飲み物、好きだったわけじゃない。このミルクティーだって、今朝初めて買って、初めて飲んでいる。
昨日の先輩との余韻を探したくて、見つけたくて、少しでもいいからまた味わいたくて、僕はミルクティーを少しずつ飲んでいたのだ。こんな甘ったるい飲み物、本当は好きじゃないはずなのに⋯⋯今の僕は、これを美味しいと感じていた。
全部、先輩のせいだった。
「ねえ、ミヤコ」
「ん?」
「今日、映画行けなくなった」
僕は、やや躊躇しながら言った。彼女が楽しみにしていたのは、誰よりも僕自身が知っていたからだ。
「えー!? なんで? ずっと前に空けといてって言ったのにぃ」
「⋯⋯ごめん。ちょっと委員会の方で生徒会から呼び出されてて」
「そっか⋯⋯じゃあ、また今度にしよ?」
僕は無言で頷いた。
この時、僕はミヤコの顔を見れなかった。でも、ミヤコは、きっとすごく困った笑みで、優しく微笑んでくれていたのだと思う。もう、10年くらいの付き合いだから、それくらいわかった。
ミヤコは、決して僕に怒らないのだ。僕がどれだけ約束をすっぽかしても、電話中に寝落ちしてしまっても、彼女はいつも笑って許してくれる。
そんな良い彼女なのに⋯⋯ミヤコは、最高の彼女のはずなのに、僕は、そんなミヤコに対して、これ以上ない裏切りをしようとしていた。
自分にだって、この理由がわからない。
僕は昇降口までミヤコを見送ると、そのまま三階のとある部屋に足早に向かった。走り出したい衝動を、必死で抑える。
理性と本能がせめぎ合っていて、今ならまだ間に合う、ミヤコを追いかけろ、そうすれば僕の日常が損なわれる事はないと⋯⋯そんな事、誰だってわかるのに、それなのに、僕は自分の身体からあふれ出る何かを抑えつけられなかった。
必死で抑えて、でも抑え切れなくて、ついには小走りで階段を駆け上がっていた。
そして、そこの前に立った。
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