第五十九夜 制覇
「よし、お前ら気を抜くなよ」
「わかってるわよ。ここが正真正銘最後だからね」
「ダンジョン全50階層の50層目......ついにやってきましたからね」
「防御は任せてくださいっす」
「後は全力を尽くすだけだよ」
事件が起こってから1週間ほどが経った現在、エレンはベルネ、メニカ、ウィル、ボードンとともにダンジョン攻略のリベンジにやってきていた。
前回はカルロスという襲撃者によって一時は生命を彷徨ったメンバーもいるが、持ち前の気力で再びこの地へと戻ってきていたのだ。
そして、前回の階層から順調に進んでいき、ようやくラストというところまで来ていた。この先待っているのはダンジョンボス、それもラスボスだ。
「よし、いくぞ」
リーダーのウィルが率先して動いていく。覚悟がぶれないうちに自らを逃げられない戦場へと追い込んでいく。
そして、目の前に佇む荘厳で巨大な両開き扉を手で押し開き、視界に入ってきただだっ広い空間へと侵入していく。
すると、すぐに目に入ってきたのは座して佇む巨大な骸。まるで巨人と呼べるようなサイズであり、そのうえで腕がそれぞれ2本ずつ、計4本も存在している。
その4本の腕で腕組みをし、胡坐のまま待つ姿勢はこれまで挑戦者が来るのをずっと待っていたかのような王者の風格を漂わせる。
「来たか、
「スケルトンがしゃべった」
突然話し始めたことに一同は困惑。ベルネは思わず口に出してしまった。すると、その骸はわずかに語気を強める。
「ワレはこの地に眠る宝を守る守護者である。名はハルバード。そこらのスケルトンと一緒にするではない」
「何さらっと挑発してるんすか!?」
「ベルネさん、やっちゃっいましたね」
「思わず出てしまったのはしょうがないでしょ!」
「まあまあ、そこを責めても仕方ないよ。それに相手はそれにかかわらず、本気で来るつもりみたいだからね」
ボードンとメニカの言葉に噛みつくベルネをなだめるエレン。そして、エレンの言葉にハルバードは思わず嬉しそうな声をあげる。
「ほう、わかっておるな。お前達はここまで数々の
ハルバードは立ち上がると腕組みを説いた。そして、それぞれの手に黒い靄を纏わせるとそれぞれに巨大な剣を携えた。
そして、このダンジョンのラスボスにして、守護者であるハルバードはその存在らしく強気に告げた。
「さあ、来い!
「いくぞ! お前ら!」
「「「「おう!」」」」
そして、最後の戦闘が始まった。
前衛のウィル、ベルネ、ボードンはボードンを中心に左右に展開しながら突き進んでいく。その後方ではメニカとエレンが3人にそれぞれバフをかけていく。
ハルバードはその三人に対して、左右それぞれ一本ずつを地面に向かって振り下ろした。
狙うは盾を持っているボードンではなく、左右に回り込むウィルとベルネ。
ハルバードの巨大な剣が地面に接触した瞬間、空間が揺れるほどの振動が周囲に響き渡る。
巻き上がった砂煙が一時的に3人の姿を消していく。
「
煙から飛び出してきたのは盾を前に掲げたボードン。初撃で狙われなかったボードンはそのままハルバードの懐へ潜り込み、勢いのままタックルを仕掛けた。
「甘い」
しかし、そのタックルはハルバードの残りの2本の手が持つ剣でクロスガードされ防がれる。
だが、その直後に2本の砲撃がハルバードに向かってきた。
「
「
白き熱波を放つ光と青白く紫電を纏わせる雷がハルバードめがけて迫り、途中でその2つの砲撃が重なり交わり一つの砲撃となってハルバードを襲う。
その攻撃を危険視したハルバードはその砲撃を防ぐことに意識を集中させ、剣を重ねて防ごうとする。
するとその時、ハルバードの両足にダメージが入る。
「勝手に無視すんなよな」
「私達は別にやられてなんてないわよ」
初撃を躱していたウィルとベルネは阿吽の呼吸で両足に攻撃していたのだ。
実のところ、二人は舞い上がった砂煙に身を隠してこのタイミングを伺っていた。
そして、その急なダメージにわずかにガードが甘くなり、ハルバードの攻撃が直撃する。
「ぐあああああ!」
「よし、いい当たり!」
「このまま畳かけるわよ!」
「そうは簡単にはやらせぬ」
「「......!」」
エレンの神聖属性の効果で直撃した攻撃は通常の何倍にも跳ね上がってるにもかかわらず、ハルバードは直ぐに態勢を立て直した。
そして、頭上で剣を2本重ね合わせると巨大な魔方陣を出現させる。
「
その魔方陣から降ってくるのは黒い雨。針のような細さでありながら、鉱物のような硬さで頭上から降り注ぐ。
「魔法衝撃壁!」
「させぬ!」
「ぐっ!」
ボードンが咄嗟に頭上へ大きな魔力で作った壁を作り出すも、すぐにハルバードがボードンを蹴り飛ばす。
ハルバードからわずかに注意が逸れていた時のその一撃はボードンに確かなダメージを入れ、地面に転がしていく。
ボードンの防御がなくなった今、普通の人に雨を避けるような高速移動術はない。故に、黒い雨が肌に切り傷を入れ、時には刺さり決して大きくないダメージを蓄積させていく。
「破黒慟」
すると、ハルバードはもう2本の剣先を自身の前で掲げるとそれをエレンとメニカに向けた。
そして、剣先に黒い靄を収束させていくと一気に解き放つ。
「「
2人は咄嗟に防御魔法で文字通りの光の壁を作り出し、その砲撃を2人がかりでもって受け止める。
その衝撃に2人はゆっくりと足が地面を抉りながら後退させられていく。
その光景を見ていたウィルは反対側の位置にいるベルネへと声をかける。
「ベルネ! ためらってる暇はない! アレを使うぞ!」
「わかったわ!」
そして、その2人は同時にハルバードに向かって動き出す。それを見逃さないハルバードは頭上に掲げていた剣先を地面に向けて突き刺す。
まるで小さなアリを包丁でもって突き刺すかのように外れれば何度も何度も地面に突き刺していく。
2人はその攻撃を全て紙一重でなんとか躱しながら、全力でハルバードの足元に駆け抜けていく。
「「せーの、そらあああああ!」」
2人は懐から取り出した聖水の入った瓶を取り出すとそれをハルバードの足に向かって投げようとする。
すると、ハルバードは剣を地面にさすとそのまま支えにして足を曲げて宙に上げた。
ハルバードは何かをする気ということを勘づいていたのだろう。故に、あえてギリギリまで攻めさせて近づけさせた。
しかし、その行動は裏目に出た。
「あ"あ"あ"あ"あ"! 手が焼けるぅ!」
その行動はウィルも、ベルネも予想していた。故に、足に投げるフリをして、支えにしている剣を持つ手に向かって聖水を投げつけたのだ。
それによって、ハルバードは剣を放して尻餅をつく。エレンとメニカに対する砲撃は止まり、ハルバードは弱点の痛みに悶え続ける。
「ここからだ! いくぞ!」
ウィルは全員を鼓舞するように叫び、ベルネとともに突貫していく。
その一方で、エレンはメニカの力を借りると同時に今まで温存していたグレンを呼び出す。
「グレンちゃん、出番だよ。力を貸して」
「キューイ!」
エレンはメニカから魔力を譲渡してもらうと同時に<魔法攻撃上昇>のバフをかけてもらう。そして、エレンはそのもらった魔力を使い、グレンとの魔力リンクに意識を集中させる。
「くらいやがれ! 全力の
「くらいなさい! 全力の破砕拳!」
突貫したウィルとベルネはそれぞれの最高火力の攻撃をハルバードにくわえようとする。しかし、ハルバードはそうはさせじと残りの手が持つ剣でそれぞれを迎え撃つ。
「全力魔法衝撃壁!」
だが、その攻撃は2人にあたる直前で防がれた。それはボードンが魔力を使い切る勢いで魔力の壁を作り出したからだ。
その一瞬の硬直は確かな好機を見出した。
ウィルとベルネは攻撃する直前に聖水を自身の武器である剣とガントレッドに付与していく。
そして、硬直した腕に向かってそれぞれ切断と破砕。
切り落とされ吹き飛ぶ腕と破壊され粉々になって吹き飛ぶ腕が左右で宙に舞う。
ハルバードの残りの腕は聖水の効果を未だ引きずっていて、剣すら持てていない。
そして、ウィルとベルネ、ボードンは後方に待機していたエレンに向かって叫ぶ
「今だ!」
「エレンさん、やっちゃってください!」
「わかったよ!」
エレンはスッとハルバードに向かって目を見据えると右手に持った杖を差し向ける。
そして、すぐそばにいるグレンに指示を出した。
「契約魔法 共鳴攻撃―――――
グレンは口を開けるとその前に巨大な魔方陣を作り出し、自身の大きさの数十倍もの大きさの砲撃を撃ち出した。
光と炎が混じったその一撃はまさに竜の息吹とエレンの魔法が重ね合わさったような砲撃で、地面を抉り、熱波を駆け巡らせ、衝撃を轟かせながらハルバードに迫る。
その視界を覆うような白き光にハルバードは静かに告げる。
「お見事。勝ちだ、
その砲撃はハルバードを包み込み、その全てを抹消していく。そして、砲撃が終わった頃には、ハルバードの姿はなく、壁が深く抉れているだけであった。
すると、空間の中央に魔方陣が浮かび上がり、ゴゴゴゴゴと地面が揺れたかと思うと一冊の本が開かれた状態で乗った台座が現れた。
恐らくあの本がこのダンジョンを制覇した者に送られる宝なのであろう。
しかし、そんなことよりもまずは......
5人は魔力を使い果たして満身創痍ながらも近づいていく。ハルバードの黒い雨のせいで体中が傷だらけであり、至るところ出血だらけだ。しかし、誰一人かけず重症な者もいない。
そして、5人はうずうずしたような気持ちで集まるとベルネの「せーの」という掛け声で爆発したように叫んだ。
「「「「「やったああああああ!」」」」」
「完全クリアだ!」
「まさかこんな日が来るなんてね!」
「やったっす。俺、やったっす」
「泣かないでください。私も泣きそうですからぁ」
「勝った。勝ったんだよ......」
そんな5人はしばらくの間、勝利の喜びに酔いしれていた。
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