第ニ夜 初めての冒険者活動
ハクヤとエレンはギルド嬢に連れられて別室へとやって来た。
その部屋の中心には意味ありげな台座があり、その上に柔らかそうな紫の布に置かれた水晶があった。
魔力属性を判別するための水晶だ。
「これからこの水晶に魔力を流していただきます。そうすると、赤、青、緑、黄、茶、黒、白と7色のいずれかが光を放ちます。二つの場合もあります。そして、もし光らない可能性があったとしても、それは無属性というまた違った属性になるので気にすることはありません。それに得意属性がわかったといっても、それ以外の魔法が使えないとかそう言うのはありませんので。あくまで伸びしろが多いという感じです。まあ、なんにせよやってみましょうか」
ギルド嬢はザっと簡単に説明するとエレンを水晶の前に促していく。
そして、エレンがその水晶に手をかざし、魔力を流し始めると一気に白い光が周囲を覆う。目を覆わなければ何も見えなくなりそうなほどの光の量だ。
それから、その水晶の周りには僅かオーロラのような光のカーテンが見える。
エレンが眩しさに耐えきれず魔力を切ると部屋は元の明るさを取り戻していく。
エレンはダイレクトに光を浴びてチカチカしているのか、少し間抜けな顔をしている。その一方で、ギルド嬢は驚いた様子であった。
「すごい......すごいですよ、これ! 光属性でもただの光属性じゃなくて、その上級の神聖属性なんて!」
「それってすごいんですか?」
「すごいも何もアンデットに対して有効なのはもちろん、回復魔法、付与魔法と他にもいろいろありますが、ともかくこれは聖女にも匹敵、いやそれ以上かもしれないですよ!」
「え、聖女様と!? ねぇ、ハクヤ聞いた!? 私、聖女様と同じなんだって!」
「良かったな」
嬉しそうに報告するエレンにハクヤは笑みを浮かべて返す。しかし、内心では笑えていなかった。いや、いずれわかることであったから仕方ないこととも言える。
とはいえ、それを本人が気づいていないことが幸いか。そして、それをこれから気づかせることもない。
「ちなみに、ハクヤは何属性だったの?」
「無属性だ。魔力が無かったら本当の意味で『無』だったんだが、幸い魔力があったからな」
「まあ、ハクヤが何も能力無かったら私が抗議してたね。ハクヤが無能力なわけないって」
「ははは、ならエレンが無駄にいきり散らす必要が無くて助かったってわけだ」
「それってどういう意味?」
ギロッと睨むエレンの視線を感じつつ、ハクヤは華麗にスルー。
そして、ハクヤが「せっかく時間があるし、何かクエスト受けてみるか」と告げるとエレンは嬉しそうに返事した。
それから、担当してもらったギルド嬢に適当なクエストを見繕ってもらうとそのクエストを受けることにした。
これからやるのは指定された数の野ウサギを狩って、それを直接精肉店や食事処に届けること。代金はウサギを渡したら、その店の主がくれるそうだ。
ハクヤは最初のクエスト......いわばおつかいみたいなクエストに対して、エレンがだだをこねるかと思っていたが、案外そうではないようだ。
「意外だな。てっきり、『もう少しランクの高いクエストを挑ませて』とか言うと思っていたのに」
「私はそこまで自信過剰じゃないよ。それに何も知らない今の私でもできるのをギルド嬢さんが見繕ってくれたんだから。なら、そのような雑用クエストと言われるものでもしっかりやって信用を高めないとね」
「さすがに堅実的だな」
「ハクヤ、一度私に対してどう思っていたかキッチリ話し合おうか」
「大丈夫大ジョーブ。俺はちゃんと(娘として)好きだぞ」
ハクヤはエレンの頭をポンポンと軽く触れながらサラッと告げる。
すると、エレンは「もう急に素直になるんだから~」と言いながら赤くなった頬を両手で押さえて身悶えた。
二人の間で絶対的な意味の取り違いが行われてることにハクヤは気づきながらも触れることはしない。だって、こっちの方が上機嫌で扱いやすいから。
とはいえ、ハクヤは先ほどのエレンの発言で少しだけ懐かしい顔をした。昔に同じような言葉を告げていた人の顔を思い出しただけだ。
最近は成人してから増々育ての母の顔や雰囲気に似てきている気がする。エレンもやがては落ち着くのだろうか。
二人は森に移動していくと冒険者のハクヤが先輩らしくエレンに指導する。
「野ウサギは基本的に素早い。レベルが高くなれば直接捕まえることは出来るだろうが、今のエレンにはまだキツイ。だから、罠を張ろう。エレン、現時点で使える魔法はあるか?」
「今使えるのは回復魔法のルーデと光源魔法のフラッシュ、そして結界魔法のマラナだよ」
「なら、フラッシュとマラナを使おう。それを使って野ウサギを追い込むんだ」
「追い込むってどこに?」
「落とし穴」
ハクヤはサッと何もないところかスコップを取り出すと地面を掘っていく。そして、ある程度の高さまで掘るとまたサッと剣の刃だけ取り出して、それを地面の下にセットする。
そして、エレンに周囲10メートルに結界を張るように指示していく。
「さすがの魔力量だな。囲うまでは張れないと思ってた。体調は大丈夫か? 魔力が枯渇するとだいぶ苦しくなると思うが」
「大丈夫。全然、平気だよ。それでこれからどうするの?」
「結界を少しずつ落とし穴に向かって狭めつつ、フラッシュを定期的に点滅させて恐怖心を煽る。そうすれば、逃げようと暴れまわるはずだから、後は落とし穴に追い込むだけ」
「わかった」
そして、ハクヤとエレンは視界に捉えた野ウサギをジリジリと追い込んで落とし穴に向かわせていく。
逃げ出した野ウサギは落とし穴に向かうとその下にある剣山に突き刺さり、死亡していく。
それを指定された数だけ繰り返していく。途中、魔物が好きなエサをハクヤがばら撒いておびき寄せながら、同じことを繰り返す。
それから、1時間後――――――
「全部で12体集まったね」
「そうだな。血とか見てて気持ち悪くならないか?」
「ううん、平気だよ。それにこの野ウサギさん達が私達の体を作ってくれてるなら気持ち悪がって目を背けるのはダメだと思う」
「......立派な考えだと思う」
ハクヤはエレンの言葉に母の顔がチラつきながらも、落とし穴から野ウサギを回収。そして、首を切って木の枝に逆さにつるして血抜きをしていく。
「ねぇ、どうしてこんなことするの?」
「食材の鮮度を保つためだ。それにこういう森に住む生き物には独特の臭みがある。それを消すための工程で、こうすればさらに美味しい料理が食えるようになる」
「なるほどね。なら、私やってみたい」
「いいよ」
ハクヤは普通の冒険者なり立ての女性なら嫌がる血抜き行為も積極的に行うエレンに嬉しさを感じながら、その方法を教えていく。
一通り教えたが、肉を切る感触に慣れないのかハクヤよりも雑で、白い服に血が飛び散っている。まるで凶悪殺人犯のようだ。
しかし、本人は一生懸命なので言うにも言えず、もう少し女の子らしい部分も見せて欲しいと思った。
全ての野ウサギの血抜きを終えるとそれを袋に詰めて町に戻っていく。そして、ギルド嬢から受け取ったクエストの紙に書いてある店に野ウサギの肉を提供していく。
エレンが丁寧に渡しただけなのに、その神聖な雰囲気と年相応な明るさ、そして美少女という三点が組み合わさったせいか店主が総じてエレンをまるで孫のように扱い始めた。
このクエストは基本的にエレンのためのクエストなので肉の渡しに関してはエレンに一任していたのだが、仕事の報酬としてお金だけではなく、その店の結構いい食材まで貰ってきた。
エレンは律儀に「こんなに受け取れません」とか言っているが、結局押し切られて貰ってきている。
......なるほど、これから買い物はエレンに一任しようか。
「ハクヤ~、なんか両手に抱えきれないほど貰ってきちゃった」
「ありがたく受け取っておけ。皆、エレンに感謝してるんだよ」
絶対にそれだけじゃないが。
「そうだ。せっかくだから、近くに店で食事していくか。良い肉もらったし、それで調理してもらおう」
「いいね、そうしよう。さすがに全部は持ち帰れないからね」
ハクヤはエレンから半分ほど食材を受け取るとそのまま近くの食事処に向かって行く。
そこでエレンの出番だ。エレンが行けばきっと顔見知りでなくても甘ちゃんになって特別料理とかしてもらえるはず。
そのハクヤの目論見は見事に成功した。そして、エレンがハクヤのそばに寄ってくると近くの席に座った。
それから、5分後ぐらいが経つと店の娘さんらしき女性が料理を運んできた。
「いいお肉ありがとね。はいこれ、野ウサギの肉厚ソテーと濃厚スープ。あとサービスにアコックから絞ったジュース」
「わぁ~美味しそう。いっただきまーす」
「いただきます」
エレンは早速ソテーに手を付けるとそれを美味しそうに頬張る。そして、誰が見ても美味しそうに食ってるなと思うような蕩けた表情になる。
続けてスープを飲むとぷはーっとこれまた美味しそうな表情をする。それとエレンという金髪美少女が合わさってか店内の客が総じてエレンに釘付けになる。男なんかは特にそう。
ハクヤはその視線に混じる恨みがましい視線に気づき、苦笑いしながらアコックというリンゴに似た味がするジュースを一口飲んだ。
すると、その背後の席に一人のフードの女性が座った。そして、ハクヤに小声で告げる。
(この町の北側にシリアルキラーがいる。殺された人間の一部は毎回体の一部が剥ぎ取られているそうだ。それも美男美女限定)
(なんとも恨みがましいことで。それでそれを伝えに来たということは?)
(影楼の可能性が高い。奴らは異常者だからね。あとくれぐれもバレないようにな。最近、目ざといんだろ?)
(俺のことに関して昔以上に知りたがりだ。でも、10年以上隠してきたんだ上手くやるさ)
「ん? どうしたのハクヤ? 食べないの?」
「食べるよ。ただ毎回美味しそうに食べるエレンに見惚れちゃってね」
「もうハクヤったら。そんなこと言っても、今晩はしっぽりだけだからね!」
「それってつまりいつもと変わらないよな。それとその言葉をここで使うのはやめなさい。あとその言葉を誰から教わったか教えてもらおうか」
針のむしろのような視線を感じながらも、ハクヤは全く気にせず何事もなかったようにエレンと食事を続けた。
その背後にいたフードを被った女性の姿はもうなかった。
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