第71話 とある村。廃屋にて

 裁判で訴えてやる。と私はズルズル千紗ちゃんに引きずられながら泣いた。

 人の嫌がることをしてはいけませんって幼稚園の先生も言ってたわ。怖がる女の子を肝試しに連行するのは法律違反よ。憲法に反するのよ。死刑よ。なんて言っても千紗ちゃんは「こっから先日本国憲法は通用しないから」とか適当なことを言ってどんどん先へ進んだ。


 太陽だってまだ眠っている。私の腕の中のチョコもまだいびきをかいていた。後ろを歩く湊先輩と雫ちゃんだって、しょぼしょぼ目を擦っている。

 真っ暗な早朝の道を、ライトの光だけを頼りに私達は歩いていた。


「肝試しは嫌って言ったじゃないのっ」

「朝とかならまだしも、って言ってたじゃないか。夜は嫌だけど朝なら大丈夫ってことだろ?」

「誰かタスケテェーッ」


 昼に行った日本家屋が肝試しの会場らしい。

 昼間に見れば風情があろうが、夜になれば途端に本格的なお化け屋敷と化すだろう、あの家。

 身震いする私を知ってか知らずか、千紗ちゃんと同じくらいうきうきした様子の鷹さんが朗らかに笑ってから、「そういえば……」と低く滑るような声音で語り出す。

 

「夕食を土屋さんが持ってきてくれたときにお話ししたの。なんでもあの家、ある噂があるんだって」

「この村噂ばっかり……」

「あそこには数十年前まで、一人の女性が住んでいたんだよ」


 山田というその女性は、村の大人達からとても慕われる人であったらしい。

 彼女はあの家に夫と共に住んでいたが、早くに夫を亡くして以来、ずっと一人暮らしだった。

 子供達に裁縫や生け花といった技能を教える仕事をしており、能力の高さ、また滲み出る所作の美しさなどから村の大人達は彼女のことを慕っていた。

 しかしあるとき突然彼女は姿を消した。家財もそのままに、忽然と。

 借金による夜逃げ。神隠し。誘拐。村人達はざわざわ噂話をしていたけれど、結局今日までその詳細は不明のままである。

 家を勝手にどうこうするわけにもいかず、放置されて数十年。あの家はすっかり荒れ果てた廃屋となってしまった。


「礼儀作法に厳しい人だったみたい。そんな人が急遽引っ越すにしたって、近所の人に挨拶も残さないなんて変。墓地にある夫の墓も、遺影も放置していなくなるなんておかしな話だって、村の人達も不思議がってたみたいだよ」


 山田さんの引っ越しは、度重なる災害で家が壊れたという話でも、ダムの建設が始まるから引っ越したとかいうことでもない。確かにすこし気になる話だ。


「とある村の、ちょっと不思議な噂のある廃屋。そんなの雑誌のネタにはピッタリ!」

「そうそう。それにさ」


 千紗ちゃんが鷹さんの話を引き継ぎ、ニヤリと笑う。


「あの廃屋も、昔はここら一帯で特に立派な家だったって話じゃないか。中は手付かず状態なんだろう? ということは、隠されているお宝が山ほど残ってるって話よ!」

「そ、それは泥棒だよ!」

「まあまあ雫さんそんな怒んなって……。人がいなくなって数年ならともかく、数十年がたってるんだ。このまま放置してたってゴミが増えるだけだろ。あたし達がいくらかもらったって、むしろゴミの処分を手伝ってることになる。リサイクルだよ、リサイクル」

「で、でも…………」

「マジでやばそうな品はそのままにしとくからさ。それにほら、願いが叶う石もあるかもしれないだろ?」


 体のいい言い訳だなと思う。けれど口達者な千紗ちゃんにぺらぺらまくしたてられ、私と雫ちゃんが丸め込まれているうちに、とうとう廃屋へとたどり着いてしまった。

 闇の中にドロリと暗く立っている家。私はごくりと唾を飲み、どうか早く宿に帰れますように……と祈った。


 チーム分けして順番に回った方が雰囲気出て面白いだろ、と千紗ちゃんの言葉に私達は輪になって拳を突き出した。グーとパーで分かれるあの遊びだ。

 鷹さんのかけ声に合わせ全員えいやと手を出した。私はグー、他の皆はパー。


「決まりだな、ありすとそれ以外。よし行くぞ!」

「待って! 待って!」


 最悪のメンバー編成に私は抗議した。普通こういうのは三対三になるまで続けるものじゃないだろうか。

 縋りつく私を無視して千紗ちゃんは家に向かって歩いて行ってしまう。地面に倒れ伏し号泣する私の腕から飛び出したチョコも、ニコニコ彼女達についていった。帰ったら三日間チョコのおやつを抜きにしようと決めた。


「ぼ、僕ありすちゃんと一緒に行くよ……」


 見かねた湊先輩が踵を返してやってきてくれた。私は感涙の涙を流し、今度湊先輩に学食を奢ってあげようと決めた。

 じゃあわたしも……とそわそわ雫ちゃんも来てくれそうだったが、これ以上いなくなったらつまんねえだろと千紗ちゃんに止められていた。


「長くても三十分くらいで戻ってくるからよ。明るくなったら、お前らの番が怖くなくなっちまうだろ」

「お昼までゆっくり回ってきていいわよ」


 私と湊先輩は皆が戻ってくるまでの間、近くの切り株に腰かけて、だらだらお話をすることにした。

 彼は私の緊張をほぐそうと色々な話をしてくれた。この前遊びに来たいとこのお兄さんが絵画個展のチケットをくれた話、涼先輩が教育実習の女子大生に告白して大玉砕したシーンをクラスメートがSNSに上げたらバズった話。

 彼の話に私はふわふわ笑った。ようやくリラックスしはじめた頃、千紗ちゃん達が戻ってくる。


「お宝が眠ってると思ったのに。汚いわ、臭いわ、目ぼしいもんもないわで最悪!」


 どうやら何も見つからなかったらしい。不貞腐れる千紗ちゃんの横で雫ちゃんとチョコは無事出られたことにほっと息を吐いていた。

 鷹さんだけは妙にニコニコ笑って、適当に拝借してきたらしい品をいくつか取り出して並べていた。古めかしい小箱やらビデオカセットやら古書やら。アンティークなインテリアとしては使えそうだけれど、リサイクルショップに売ったって数円にもならなそうなものばかりだ。

 いい感じの写真が撮れそうだと思ってね、と鷹さんはカメラを構えてその品を撮る。後ろから覗き込んでみれば、なるほど確かにホラー映画にでも使えそうな雰囲気のある写真が撮れていた。


「写真映えしそうなものを少しもらってきたんだ。このビデオテープ、デッキに差しっぱなしだったの。まだ見れるかな? 後で皆で見てみようよ」

「こういう場所に放置されてるビデオって、なんか曰く付きな気がするわ……」

「貞子の一人か二人でも映ってるといいな」


 目ぼしい宝がないなら私達は行かなくてもいいのではないかと思ったが、そうもいかないようだ。渋る私は千紗ちゃんに背を押され、苦虫を噛み潰したような顔で湊先輩に引っ付き家に向かった。

 どうかオバケなんて出ませんように、と願いながら。

 オバケの方がましだったかも、と後で思うことになるけれど。



「おじゃましまぁす……」


 玄関の先はただただ暗い。昼間は長く伸びていた廊下も、この時間帯では一メートル先もろくに見えず、濃厚な闇がぽかんと口を開けているようでゾッとする。

 分厚い埃の上に、昼間私達が入ったときに踏んだ靴跡が残っている。申し訳ない気もしつつ廊下を靴のままギシギシと歩いた。

 黒っぽい木の廊下。隅に溜まったカビ。黄ばんだ壁。張り付いた蜘蛛の巣。昼間だって見ていたそれが、夜の中では異様に心臓をざわつかせる存在に変わる。

 数時間たつだけでこんなにも家の雰囲気は変わるものなのかと、肌をなめる恐怖にぞわぞわと鳥肌をたたせながら私は思う。


「湊先輩は怖くないの?」

「うーん。そりゃ、ちょっとは怖いけど……」

「けど?」

「自分より怖がっている人を見ると、安心しない?」

「つまり私は生贄というわけか……」

「いや別にそうは言ってないけど」


 暗い家を歩く。ただそれだけのはずなのに、どうしてこんなにも怖いのだろうか。

 心臓が激しく脈打っている。緊張で指先が震え、脳味噌が恐怖に張り詰めている。息を吐くことさえ恐ろしく、私はふうふうと浅い呼吸を繰り返していた。


 せめて噂なんてなければここまで恐ろしく思うことはなかったかもしれない。ここの住民である山田さんが行方不明になったという噂。それがあるから、こんなに怖いのかも。

 情報が少ない分想像は膨らむばかりだ。どうして彼女はいなくなった? 事故に巻き込まれた? それとももしや、不審者に殺されて床下にでも埋められてやいないだろうか……。


「僕達はパパッと見て終わりにしようか」

「うん」


 千紗ちゃんのようにお宝さがしをするつもりはなかった。そりゃ願いが叶う石のことは気になるけれど、あるかどうかも分からないものを、こんな所で探し回ろうとは思えない。

 居間、物置、客間。いくつかを見て回った後、次に入ったのは誰かの自室のようだった。山田さんの部屋だわ、と入った瞬間に私は理解する。


 和室、と聞いてパッと思い浮かべるようなそんな部屋だった。

 文机や掛け軸が置かれている一人部屋。柱に使われている木が漆黒色をしているせいか、空気がキリリと引き締まっている。家具は少ない。必要最低限だけを置いているといったところか。

 湊先輩は簡単に机や押し入れを開けて「やっぱり何もないねぇ」と他の部屋でも言っていた言葉を繰り返す。

 畳のカビを避けるように部屋のすみっこに立っていた私は、ふと横にある鏡台が気になってそちらを開けてみた。


 中には化粧品がそのままで放置されていた。レトロ感を抱くパッケージに詰め込まれた化粧品。おしろいや紅は当然すべてボロボロで、指先で触れただけでもろっと崩れてしまう。

 鏡台の上には小箱やらブラシやらが並んでいたが、その中に写真立てが置かれていた。キリッとした顔の女性がこちらを睨みつけるように立っている。

 おそらくこれが山田さんだなと、一瞬で理解した。表情からでも読み取れる厳しそうな雰囲気が、この部屋の雰囲気とよく似ていた。

 この人と仲良くなるのは難しいかもな……と私は会ったこともない山田さんに思いをはせた。隣には旦那さんでも立っていたんだろうが、写真は半分ビリビリに破かれていた。獣のしわざか経年劣化か。

 私は写真立てを元の位置に戻そうとした。そのとき肘がコツンと横の小箱に当たる。小箱は台から落下して床に落ちた。

 その瞬間、くすぐるような音色が流れだす。


「ひっ」


 私は悲鳴をあげ全身の産毛を逆立てた。暗闇に突然流れだした奇妙な音楽に、湊先輩も驚いた目で固まっている。

 けれど私は落ちた小箱がオルゴールであることに気が付いた。今の衝撃でネジが回ったのだろうか。サビついて軋んだ音色はほんの数秒だけ流れ、すぐ消えた。

 私はほーっと長い溜息を吐いて、もう一度ネジを回した。無音でいるより少しでも音楽がある方が落ち着くかと思ったのだが、軋んだ音はただホラーでしかなかった。


「それって子守歌?」


 湊先輩が言った。繰り返し聞けば、その音色は確かに子守歌のようだった。ねんねんころりよ、おころりよ……。懐かしさを感じるその曲に、湊先輩は怪訝そうに顔をしかめる。


「子供がいたのかな」


 子守歌といえば子供に歌うもの。けれどこの家に子供はいないはずだ。見て回った部屋の中にも子供部屋はなさそうだったし、村の人達の話でも山田さん夫婦に子供がいたという話は何も……。

 オルゴールがバキリと音をあげて止まる。何かが内部で引っかかっているようだ。緩んでいた蓋を開けてみると、中から何かが落ちてきた。

 それは小さな鍵だった。


「何だろ、その鍵?」

「……もしかしてこれ、秘密の部屋の鍵だったりするのかしらっ!」


 私は少し声を弾ませた。オルゴールに隠された謎の鍵。それと似たシチュエーションを魔法少女アニメで見たことがあるのだ。あのアニメではその鍵を使って、魔法の世界への扉を開くことができたのだっけ。

 この家には秘密の部屋があるのかもしれないと思えば、不思議と恐怖が消えていく。私はわくわくキラキラとした目を湊先輩に向ける。


「千紗ちゃん達も探しきれていない場所があるかもしれないわ。だって三十分だけだったもの。この家のどこかに、秘密の部屋が隠れているはずよっ」


 まるで忍者屋敷だな、と湊先輩が笑った。さっきまであんなに早く終わりたいと思っていたのに、今はすっかり宝探しの気分だった。

 私達は急いで家中を回る。けれど書斎や居間、いたるところを回っても鍵を使えるような場所はどこにもなかった。一体どこの鍵だというのかしら。

 最後に絶対ここじゃないだろうなと放置していた台所に来てみるも、予想通り鍵穴らしいものは一つも見当たらなかった。冷蔵庫の乾燥しきった野菜や、おかしな色の液体がだぷだぷと揺れる瓶を見ながら溜息を吐く。


「うっ」


 床下収納を開けた湊先輩が呻いた。どうしたのと隣にしゃがみ込んだ私は、床下から臭ってくる異臭に顔をしかめた。

 元々食料の保管庫として使っていたのだろう。腐った野菜や肉の脂がしみついて、嫌な臭いが立ち込めていた。真っ黒に変色した米が溢れている米袋、虫の死骸や獣の糞尿の酷い臭い。

 胃がムカムカする悪臭に首を振る。臭いに敏感な千紗ちゃんなら絶対開けなかったろうな……と蓋を閉めようとしたそのとき。指の隙間から、鍵が滑り落ちてしまった。

 おっと、と私は咄嗟に鍵を拾うため収納に上半身をつっこむ。真っ暗でよく見えないがどうせすぐ届くだろうと、ライトは付けなかった。

 けれど私の体は、そのまま穴へと転がり落ちた。


「えっ、ありすちゃ――」


 湊先輩の驚く声がずいぶんと後ろに聞こえた。落っこちているのだなと、私は真っ白パニック状態の頭でそんなことを思う。

 深い穴が開いていたのだ。井戸みたいな。秘密の道が米袋の下に隠されていたんだ。私が体重を乗せたから、米袋ごと穴に落っこちちゃったんだな……。


「ギャンッ!」


 地面にベチンと吐き出された。

 打ち付けたあごを擦りながら振り返れば、天井にぽっかりと開いた穴とそこから私を覗き込んでいる湊先輩の顔が見えた。彼は慌てて、壁にかけられていた古い梯子をギシギシ下りて私の隣に着地する。


「だ、大丈夫?」

「なんとか……」


 床下収納に地下室が隠されているという話は聞くけれど。まさかこんな建物にまで地下室があるとは思わなかった。

 私は湊先輩の手を借り立ち上がる。痛むあごを擦り、パチパチと瞬いて前を見て、そしてあっと声をあげた。

 そこには新たな部屋があったのだ。


 異質だ。私はその部屋を見てまっさきに思った。

 四畳半ほどの部屋だ。

 山田さんの部屋をより簡素に、より質素に縮めたような、ほとんど物がない部屋。

 けれど何よりもその部屋が変だと感じた理由。それは、部屋の周りを檻が囲んでいるからだった。


「檻……?」


 携帯が鳴った。

 ビクリとしてから取り出してみれば、それは鷹さんからの着信だった。

 タイムリミットの三十分はとっくに終わっていた。早々に出てくるだろうと思っていた私達がいつまでも戻ってこないから、心配してくれたのだろう。

 出た瞬間、どうしたの? と鷹さんの不安気な声が聞こえてくる。


『もう三十分たってるけど、どうかしたの? 大丈夫?』

「実は、床下に変な場所を見つけちゃって」

『変な場所?』


 ビデオ電話にして鷹さん達にもこの場所の様子を見せた。異様な光景に、彼女達も眉根を寄せていた。やはりこの場所のことは気付いていなかったのだろう。

 檻に囲まれた狭い部屋。その異様さに皆が押し黙るなか、雫ちゃんがふと思い出したように言った。


『私宅監置みたい』


 したくかんち? と私は繰り返す。皆の視線が雫ちゃんに集まり、彼女は少し頬を赤らめた。


『前に民俗学の本で読んだことがあるの。昔は心に病気を抱えた人を、そうやって檻に閉じ込める風習が一部の地域にあったんだって。それとすごく似てる』

『はー、ペットみてぇだな。閉じ込めるってそりゃなんでだよ』

『手あたりしだいに暴力を振るってくる患者から、家族が身を守るためって理由もあったらしいよ。……まあ近所の目を気にして、死ぬまで人目に出さないため、っていうのもあったようだけど』


 私宅監置というものが何かは分かった。しかし、どうしてそんなものがここにあるのだろう。山田さんは早くに夫を亡くして、ずっと一人で住んでいたはずなのに。

 ここだけ見たら戻るわ、と言って私は電話を切る。床に落ちていた鍵を拾って檻の鍵穴に差し込んでみる。

 カチリ。

 軋んだ音をたてて扉が開く。

 途端、風など吹いていないはずなのに、どろりと粘ついた嫌な風が私達の頬を撫でていったような気がした。


「……入ってみよう、か」


 真っ暗な部屋をライトが照らす。物は少なかった。隅に畳まれた小さい布団と、机、私の身長程度の本棚がある程度のものだ。

 布団を探っていた湊先輩が不意に「あ」と声を漏らした。彼のライトが布団の傍に置かれていた一着の服を照らしていた。昔のデザインのワンピースだ。

 ここに住んでいたのは女の子だったのだろうかと私は目を丸くした。だってあんまりにも質素な部屋だ。私のカラフルな自室とはあまりにも違う。こういう趣味といったらそれまでだが、この部屋は趣味というよりは、そう、まるで勝手に物を増やすのが許されていないような……。


 机についた手がザラリと擦れた。ふと私は手を見下ろす。机の上に一枚の紙が置かれ、何やら文章が書かれていた。この部屋の主が書いたのだろう。

 達筆な文字をまじまじと見て……私は唐突に悲鳴をあげた。

 驚いた湊先輩がどうしたのかと聞いてくる。けれど、答えることはできなかった。愕然と震える私の視線を追った湊先輩は、同じくその紙を見て小さく呻く。


「どうして」


 これはこの部屋の主が書いた文章だ。

 ならば余計、どうして。

 だって星尾村は楽土町から離れている。あの街とこの村は何の関係もない。のどかで平和で、何の事件も起こらない静かな村……。

 そのはずでしょう?


 脳味噌からザーッと血の気が引いていく音を聞く。

 皮膚の内側に張りつめていた恐怖が、ぶくりと醜く膨らんだ。

 私は分厚い息を吐き出して、その文章に目を見開いた。


 『夢を叶えましょう』

 『私は天から命を授かった』

 『世界に救済を。私に祈りを。さすれば願いは叶うであろう』

 『黎明の刻。天より生まれし乙女が、悪しきを倒し、世界に光を与えるだろう』

 『私の夢を叶えましょう』


 黎明の乙女の言葉が。なぜ、ここにある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る