【????】

 ――――知ってる? 流れ星に願いごとをすると、そのお願いは本当に叶うんだって。




『やあ、はじめまして。ぼくは繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩』


 【君】と星を見にいった夜。ぼくたちは宇宙人とであった。

 キラキラピカピカ星がきれいな夜だった。空からこぼれそうなほどたくさんの星が、高台からはよく見えた。

 そこからは、空にぽっかりと浮かぶ巨大なUFOもよく見えた。


『流れ星の流れに乗ってこの惑星にやってきたんだ。君達はこの惑星ではじめて発見した生命体! わくわくしちゃう。ぜひとも実験動物になってくれない?』


 UFOからおりてきたのは、外国のモンスターのぬいぐるみみたいな、ふしぎな生き物だった。

 ネバネバとしたピンク色の触手のかたまりでできていて、目玉は八つもあって。ぐちょぐちょ泡だった声はすごく聞きとりづらかった。『地球のことばにホンヤクしているんだ』って言った。


『君達は確か「ニンゲン」ってやつだろ』

「う、うん」

『オスとメスだ。交尾をして子孫を残すための個体だね。ニンゲンとニンゲンはこれから生殖行動をとるつもりなのかい? 研究資料用に撮影していい?』

「なに言ってんのかよく分かんないや。それからぼくたち、ニンゲンって名前じゃないよ」

『個体名があるんだね。どんな名前なの?』

「ぼくはイセって言うんだ」

『ふーん、イセ。じゃあ隣の君は?』


 繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩はよろしく、とぼくたちに触手をさしのべた。つかんだ触手はべちょべちょしていた。首からさげたカメラも汚れた。父さんのへやからかってにもってきたカメラがこわれたらやだなと思って、カメラについたベタベタを服でゴシゴシふいた。

 夜空の星が繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩の体をパチパチと光らせて、ちょっぴりきれいだった。


 【君】はそのとき、どんな顔をしていたんだったっけ?


 ぼくたちはしばふの上にねころがって色んなお話をした。宇宙人とおはなしするなんてはじめてでドキドキした。人生がはじまってからの七年間で、いちばんドキドキした時間だったかもしれない。

 ポケットから、夕方おかし屋さんで買ったチョコレートがでてきたから三人で分けた。繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩は溶けかけのチョコレートを気にいったみたいで、ぼくと【君】のチョコレートを半分うばって食べた。

 お返しにもらった青いミルクと緑色のケーキは■■■な味がしておいしかった。


『「ナガレボシ」に願い事をすれば願いが叶う? 宇宙のゴミに祈るだなんて、地球人は不思議なことをするんだね』

「今夜は数十年に一度の、ええと……なんたらリュウセイグンの日なんだって。シンブンで見たんだ。だからこっそり家をぬけだして二人で星を見にきたんだよ。まさか宇宙人と会えるなんて思ってもなかったけどさ」

『願い事かぁ。それ、流れ星じゃなくて、ぼくが叶えてあげようか』


 すきとおった空気のなかに繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩の声が流れた。

 キラキラピカピカ光る声だった。


「なんだって?」

『ぼくが君達の願いを叶えてあげると言ったんだ』


 ツヤリと繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩の八つの目玉が光った。


『地球のことを色々教えてくれたお礼だよ。遠慮しないで、なんでも言って』

「なんでもって。本当になんでも?」

『山よりもたくさんのチョコレートを出してあげようか? 一生かけても使いきれないほどの大金を出そうか? 君を世界一のハンサムにすることだってできる。富、権力、名声? なにがほしい?』


 繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩は本当になんでも叶えてくれるんだろうなって思った。

 だって宇宙人だから。

 ぼくはドキドキと胸をおさえて、首から下げたカメラをぎゅうっとにぎって「しゃ、写真」と言った。


「ぼくといっしょに写真をとって!」

『写真だって?』

「流れ星をとるつもりでもってきたんだ。宇宙人と写真がとれるなんて、ゆめみたい!」


 安上がりだな、と笑う繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩をまんなかにして三人の写真をとった。むねがすっごくドキドキして、うれしくて、カメラをぎゅうっとだきしめた。


「いっしょう大切にするね!」

『一生だなんて! どうせすぐ忘れちゃうよ。君達はまだ小さいんだから。大きくなったら今日のことだって覚えちゃいない』

「そんなことないよ。ずっと覚えてる」

『でも七歳って確かまだ赤ちゃんだろ? 生まれてから数日くらいしかたってないはず。自我も芽生えてない年の記憶なんてすぐ消えちゃう』

「七歳は、もっと大人だよ……」


 それから繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩は【君】を見る。


「君の願いは?」


 【君】は顔をあげる。長いまつげがパチパチとふるえて、ピンク色のくちびるがきゅうと小さくすぼまった。

 そして【君】はお願い事をしたんだ。



「わたし、魔法少女になりたい」



 知ってる? 流れ星に願いごとをすると、そのお願いは本当に叶うんだって。

 本当? わたし、お願い事をしにいきたい。流れ星が見えるところにつれてって。


 【君】がそう言ったから。ぼくはここに【君】を連れてきた。

 【君】の願いをお星さまが叶えてくれたらなって思ったんだ。

 ぼくたちはとてもなかよしのともだちだったから。


「いいとも!」


 繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩が触手を空におおきくのばした。次のしゅんかん、空がピカッ! と光って、あんまりまぶしくてぼくたちはぎゅうっと目をつぶった。それからおそるおそる目をあけた。

 気が付けば繝斐Φ繧ッ縺ョ縺ャ縺|?$繧九∩はUFOにのっていた。ふよふよ空に浮かんでいたUFOが、どんどん空のむこうに遠ざかっていく。


『わかったよ。少しだけ待っていて。ぼくが君を必ず魔法少女にしてあげる』


 待っていて。待っていて。待っていて。

 UFOが光って。それを見送るように流れ星が空からふりそそぐ。空のうえの天使がわっとバケツをひっくりかえしたみたいに、雨のように、たくさんの星だった。

 キラキラ、ピカピカ。手をにぎりあうぼくたちの頭の上を星が流れる。

 それは夢のようにきれいな光景だった。


「あっ」


 流れ星の一つがぼくたちのすぐそばにおっこちた。ドスンと音がして地面がゆれる。

 流れ星が次々地面におっこちる。地震みたいに地面がゆれて、ぼくはベチンと地面にすっころんだ。

 高台のしたでみんなの家がこわれていく。星が家のやねをつきやぶって、電柱をおって、だれかのひめいが聞こえた。

 ぼくはそれを見て、ぽかんと大きく口をあけた。


「待ってるわ。ずっと、ずっと待ってるわ」


 【君】がぼくの手をふりほどいて走る。

 落ちてくる流れ星のなかをくぐりぬけて、【君】はいっしょうけんめいUFOを追いかける。


「やくそくよ。忘れないでね。わたしはあなたをずっと待ってる」


 忘れないでね。忘れちゃだめよ。

 【君】はそうして、星のようにキラキラ光る涙をこぼして叫んだ。


「わたしをきっと魔法少女にしてね」


 あぶない、とぼくは【君】をつきとばす。

 【君】めがけてふってきた流れ星がコチンと頭にぶつかって、きれいな星空もUFOも【君】の顔も、なぁんにも見えなくなった。

 そしたら急にすっごくねむくなって。ぼくはそのままねむってしまったんだっけ。



 それからのことをぼくは覚えていない。

 気がつけばとなりに【君】はもういなかった。さがしても、よんでも、どこにもいなかった。

 それから長い時間がたって。ぼくは子供じゃなくなって。大きくなって。

 僕は「どうせすぐ忘れちゃうよ」という言葉の意味を知って。

 その言葉を誰が言ったのかも、もう覚えていないのだ。










 忘れてごめんね。×××ちゃん。

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