第29話 笑えない帝国で

今日のうちに帝国へ向かう。

まあ、長くても二月、早ければ一月で帰るだろう。

仕事の早いリズなら明日には話が学院の方へ届いているはずだ。

帝国には雄也もいる。それは間違いない。

しかし、今回はあくまでロニカの父親関連だ。

今の国際関係で帝国に住むなど有り得ない。

間違いなく裏に誰かいる。

両親にも手紙は送ったし行くか。


「じゃあロニカさん、また学院で。」

「うん!あ、あと」

「はい?」

「ほんとにありがとっ!それだけ。」

そんな一言と笑顔に見惚れてしまったのは仕方がない話だ。


「行くか!」

<纏い・天照>

帝国までは遠い僕の速度でも半日はかかる距離だ。



走り出して10時間ほど経ちもうすぐといったところで声が聞こえた。

「おい!さっさと歩け!」

奴隷か?帝国では確か認められていたな。

てかあれ盗賊じゃん。

「盗賊の方ですよね?」

「あ?おい小僧。俺たちのどこが盗賊なんだ?」

「その子、奴隷じゃなくて誘拐した子ですね?」

「ほう、なかなか鋭い小僧だな。」

「簡単ですよ、奴隷には皆肩に奴隷紋をつけます。

しかしそれを付けるのは簡単ではない。その紋は偽物でしょう?」

ガバッと馬車の積荷の中があらわになる。

中には酷い格好の女性が沢山。人身売買か。



「だったらどうする?ここには人質もいっぱいいるぜー?

お前みたいな小僧が万が一俺らよか強いとしても、

1人殺すぐらいわけねえ。」

確かに盗賊は5人か、出来ると考えるのも無理はない。

しかし、わからないだろう。貴様らの前にいるのがこの僕ということを

「不可能ですよ。」

僕は高速で移動して短剣で5人の脚と手を切り落とす。

「うぎゃああああああああ」

響き渡る断末魔。

「はあ、僕が開発した魔法を使ういい機会かと思いましたが、

なかなかどうして丁度いい相手がいませんね。

さあ、人を殺す人間に僕は情けはかけませんよ。

まあ、命までは取りません。安心して下さい。」

「ひっ!頼む!もう2度と悪さしねえ。脚と手を頼む。」

「命乞いする彼女達をあなたは助けますか?助けないだろう?

自分だけ助けてもらうなんて虫が良過ぎるだろ!

あんな小さい子まで誘拐しておいて、ふざけるな!

命があるだけ感謝しなさい!」

「ひ!すみません、すみません。」

「もう夜ですね。良かった。」まあ王国を出たのが昼過ぎだ。

夜は宿にでも泊まろうと思っていたが、彼女達の治療にも丁度良い。

<月読の和魂>彼女たちは瞬く間に衰弱した体を回復させる。

「お母さん!私、私は元気になったよ。ねぇなんで起きないの?

お兄ちゃん!お願い!お母さんを……」

分かっているんだろう。

「ごめんね。僕では死んだ人は生き返らせないんだ。」

「うう、ううう。お母さん。」

すまない、本当に。死んでいたのは彼女の母親1人。

あの子も危なかった。だが、母親には腕に切り傷があった。

恐らく血を飲ませていたのだろう。

あの暑さの中あの密室ではそうなる。


その夜僕は眠ることができなかった。


「はい、彼女たちをよろしくお願いします。」

「ああ、ありがとう。」あれから彼女達を傭兵に預けて帝国へ入る。

何もかも色褪いろあせて見える。

煌びやかな門、賑やかな人々、そんなものは表面に過ぎない。

僕は闘技場、「コロッセオ」というらしい建物に来た。

「これが帝国。帝国か。」

行われているのは魔獣と奴隷の戦い。奴隷は逃げ、殺された。

皆、それを見て笑い転げる人々。屑の集まりか!

「さあさあ、

観客からこの魔獣を倒せる我こそはという人はいませんか?」

ナレーターの声。

「僕がやろう。魔獣退治を。」仮面をつけて登場する。

「おお、初の参加者だああ!」

「おい、かっこいいところ見せてくれよーー。」

「殺せーー!」観客達からの声、酷く乾いたものに聞こえた。

魔獣が誰かもわからないようだな。

貴様らだよ。獣のように見にくい魔物。

僕は高らかに宣言する。

「お前達も聞いたことがあるだろう、私を、日輪を!

 

八百万の神達!そして我らが主神、天照、彼らを殺すことを許し、

そして力を。」

<笑えない世界の始まり>

僕を中心に混沌がこの会場を包み込む。

「な、なんだ?それにあいつ日輪って言ったか?王国の?」

「こんなことできるのか?」


「お前らはやりすぎだ。命をなんだと思っているのか?

それをわかるためにはその身をもって知り来世ではやり直すのだ。」

<月読の荒魂>

観客たちに喰らいつく月読の怒り、それはあえて形容するなら

闇そのもの、何があるかもわからない。ただ食われるのみ。

それが世界の三柱の1人月読がもたらす災害。

この彼らの阿鼻叫喚も外に聞こえることはない。彼らが消えただけ。

ただそれだけなのだ。

「奴隷の皆。これは私のエゴ。

願わくばこれが帝国で振るう最大の力とならん事を。」


いつのまにか消えた日輪を思い出す

奴隷達にあるのは恐怖と憧憬そして感謝。

彼らが王都の騎士に問いただされても

決して日輪の名をだすことは無かった。













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