オーディニウム
「特殊型とか汎用型って何なんだよ?」
数日後、俺はエヴァと共にレジスタンスのアジトから少し離れた場所に訪れていた。
エヴァは俺に渡したい物があるらしく、さらにそれの試行も兼ねるために、廃墟となったビル郡のある荒れ地へと足を運んでいた。
「わしらはオーディニウムという金属で形作られておる。この世界で最も素晴らしい特性を持つ金属で、我々アンドロイドが人間のように振る舞えるための強度と重量を備えておるのじゃ」
エヴァは持ってきたアタッシュケースのような頑丈な箱を開いて、何やら作業をしながら俺の質問に答える。
「そして、その金属にはそれだけには留まらず、素晴らしい特性を備えておったのじゃ」
勿体振るように語るエヴァの機嫌を損ねないように、俺は素直にエヴァに問い掛けることにする。
「どんな?」
エヴァは少しだけ嬉しそうに口端を吊り上げると、作業の手を止めることなく語り始める。
「オーディニウムは他の金属と合金化することで、特別な力を秘めることが判明しとる。例えば、飛躍的に強度が上がることはもちろん、熱を自在に操ることや、磁力を発生するものなど、その種類は多岐にわたる」
現在エヴァの指は両手合わせて二十本になっている。
一本の指が二本ずつに別れると、現代のパソコンのキーボードのようなものを凄まじい速度で打ち込んでいく。こういう姿を見るとエヴァが機械なのだと思わざるを得ない。
「そんなことができるんなら、全員その合金化されたオーディニウムだっけか……、それを使って製造ればいいんじゃないのか?」
俺の質問にエヴァは指の動きを止めることなく、頭だけを左右に振る。
二十本の指を動かしながら平然と他の動きをするなど、どんな脳の動きをしているのか、凡人の俺には全く理解ができない。いや、彼女の場合、脳ではなく人工知能だったか。
「じゃが、オーディニウム合金にはひとつ問題点があるのじゃ」
わざわざ勿体振るように、一度唇の動きを止めてこちらを一瞥するので、俺は期待通りに困った表情を浮かべてやる。
「オーディニウム合金には、人工知能からの電気信号との適合性が存在するのじゃ。ちなみに言っておくが、全く同じ人工知能は製造不可能じゃぞ。人工知能は人間と同じように個性が存在する。どの器官がその要素を司っているのか、それすらも明らかにはされておらんが、奴らを見れば個性が存在することは納得できるじゃろ?」
先程まであれほど欲しがっていたくせに、急に自分から質問項目を減らしにきたエヴァに、質問を準備していた俺は少したじろぎながらエヴァの次の言葉を待つ。
「じゃから、オーディニウム合金を組み込めるアンドロイドのことを『特殊型』、そしてオーディニウムのみで構成されたアンドロイドを『汎用型』と呼んでおるのじゃ」
その言葉と共に、少しだけ強いクリック音を発てて、キーボードの打ち込みを終えると、「よしっ」と満足そうな表情を浮かべながら、エヴァの指が十本へと戻っていく。
「例えば、ヴィンセントは『拡大・縮小』の能力を持ったオーディニウム合金で製造られておるし、アザミは『脚部強化』のオーディニウム合金で製造られておる。まあ、アザミはかなり一般的な特殊型じゃな」
一般的な特殊型という、矛盾混じりの言葉に釈然としない表情を浮かべながら、俺は数日前の戦闘を思い出す。
確かにアザミはすべての攻撃を脚部で行っていた。唯の蹴りで、まるで刃物で首を切り裂いたかのように、相手の首を吹き飛ばし、敵を蹂躙していた。
そしてヴィンセントもまた、腕の部分から突如重火器を産み出して攻撃していた。あれは、縮小されて収納されていた重火器を拡大していたのだろう。
「じゃあ、もし適合性のないオーディニウム合金を組み込むとどうなるんだよ」
エヴァは開いていた箱をそそくさと片付け始め、俺には目もくれずに唇を開く。
「動かんに決まっとるじゃろ。そこにあるのはアンドロイドではなく、ただの人形じゃ。オーディニウム合金に対して適合しない人工知能を使用しても、電気信号が途中で遮断されてしまうのじゃよ」
今回の質問はあまりお気に召さなかったらしい。
感情の色が見えるのは嬉しいが、エヴァはあまりにも感情が見えすぎる気がする。まあ、回りとのギャップに敏感になりすぎているだけかもしれないが。
「よしっ、完成じゃ」
そう言って立ち上がり両手で広げたのは、漆黒の全身タイツのようなもので、所々に電子部品の淡い発光が見られる衣服だった。
よく見ると様々なところに、麺類を束ねたような、繊維を纏めた部分が目立つ。
肩の部分を掴んで拡げられた、恐らくパワードスーツなるものは、足の部分が完全に地面に垂れていた。
しかし、そんなことはお構い無しという風に、エヴァは俺にそれを見せつけるように付き出してくる。
「どうじゃ、カッコよいじゃろ?主がアンドロイドと戦うためにはこういうものが必須じゃからな」
こうやってはしゃいだ表情を浮かべていると、見た目の年相応に見えるのだが、目の前にいるこの幼女は、本当は幼女でもなんでもなく、自分よりも千歳くらい年上のアンドロイドなのだ。
「でも、なんかコスプレみたいだよな……。本当に俺がそれを着るのか?」
相手が年相応に見えると、どうしても少しだけ意地悪をしたくなってしまう。
だが、素直に受け取ろうとしない俺に対して、エヴァの表情は一気に幼さを失い、パワードスーツを畳もうとし始める。
「そうか、ならこの話は……」
「ちょっと待ったああああああ!!着るから、俺が悪かったから」
俺はエヴァの言葉を最後まで聞くことなく、かなり食いぎみにエヴァの行動を止めにかかった。本当は凄く着てみたかったです。
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