異世界転生
驚きのあまりに叫ぶしかなかった。肉体が無いってどういうことだ。それじゃあ、俺は生きているのか?死んでいるのか?あ、死って概念が無いんだっけ?ってもう訳がわka羅n……。
「混乱する気持ちもわかるが少し落ち着け」
「これが落ち着いていられるか!!肉体も無しにこれからどうすればいいんだよ。異世界転生しても、
それにしても、そんな状態になっても声だけは聞こえているらしい。さっきから会話は成り立っているのだから、それは間違いない。
「主の意識は、時空の狭間に迷い込んでおるのじゃ。だからそんな主を、わしが救いに来てやったのじゃ。主が望むのならば、その時空のズレを直して、肉体のある身体に戻してやる。どうじゃ、悪い話ではないじゃろ?」
「ほ、本当に肉体がもどるのか……?」
まあ、正直何を言っているのかさっぱりわからなかったが、異世界転生をさせてくれる上に、肉体が戻ってくるというのであれば願ったり叶ったりだ。
「ああ、ちゃんと戻してやる。そのための準備もすでに終わっている」
中世ヨーロッパ風の街並みの中に、ダンジョンがあったりしながら、モンスターに襲われている女の子を助けて、いずれはハーレム生活になり……。
想像するだけでテンションが上がる。さっきまでの怒りはすでにどこかに飛んでいってしまった。
異世界転生をさせてくれると言うのなら、これから先の楽しい人生を投げ捨ててでも行く価値はある。
「わかった。俺を異世界に連れていってくれ!!」
俺は彼女の誘いに乗ることにした。どうせ死んだ身体なのだ。ここで彼女の誘いを断れば、この無の世界でこれから無限に過ごさなければならないかもしれない。そんなの真っ平ごめんだ。
「ふっ……、そう言ってくれると思っとったぞ。よし、ならば善は急げじゃ。早速意識の定着を始めようではないか」
本当に彼女が何を言っているのかわからない。
俺はここから魔法陣とかが出て来て、魔法で異世界へと飛ばされるのかと思ったが、そんな様子は欠片もない。
彼女は白い衣に付いていたポケットを漁り始めると、そこから何やらスイッチのようなものを取り出す。
そういえば、先程から白い衣とか思っていたが、落ち着いて彼女を観察すると、確かに白い衣ではあるが、あれは……。
「では、あとは残り短い旅路を楽しむがよい」
彼女はポケットから取り出したスイッチを押すと、俺の身体は急激な浮遊感に襲われ、身体の自由が効かなくなる。
やがて、何かに吸い込まれるように身体が浮かび上がり、彼女が俺の脚先よりも下になる。
そんなことよりも、彼女が身に纏っているものを俺は知っている。あれは女神なんかが着るものではない。
確かに白い衣だが、あれは白衣だ。いや、漢字で書くと本当にわからないが……。
「お前、絶対女神とかじゃねーだろっ!?」
俺は遠ざかっていく彼女にどうしても、一言言ってやらないと気が済まなかったのでそう叫ぶと、彼女は含みのある笑みを浮かべながらこう言った。
「さあな?わしが何であるかなど些細なことじゃ」
なんだか急激にこれから先に本当に俺が想像しているような世界に行けるのか心配になってきたが、最早考えたところで後の祭りだ。
俺は光の渦の中に吸い込まれ、身体がまるで無くなっていくかのように、光の中に溶け込んでいく。
「騙したら容赦しねえからな、この似非女神ぃぃぃぃぃ!!」
最後に負け犬のような捨て台詞を残しながら、俺の身体は光と同化し、俺の意識は無に還った。
ぼんやりとした意識の中、まるで心の中に語りかけるようなある声を聞いていた。
『どうか彼らを救ってやってくれ……』
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