君と紡ぐ夏の夜 下
「ぁ……、ぅんんっ……」
「はぁっ……。春円……、かわいい」
つい我慢ができなくて、泣き止んで少し落ち着いた春円の小さくて形のよい唇を、夢中で
「ぁッ……! やぁらっ、毛野……」
口づけをほんの少しでも離せば、物欲しそうな
――だけど、これ以上は……。
さらに離れていこうとする毛野を、今度は春円が引き寄せ、また二人の唇が重なる。
「春っ……! んんッ……!」
――これ以上は、もう駄目だ。こんな場所でこれ以上したら、我慢が――…。
そう思っているのに、なかなか口づけを解けない。愛しさが
「はぁっ、好きっ、すきぃ……っ‼ 毛野ッ、もっとぉ……、もっと触って……」
春円が今まで見せたこともないような顔で、まるでおねだりするように懇願してくる。
「でもっ、これ以上は……!
ここは外で、いくら人気の少ない林道とは言え、正直いつ誰が来てもおかしくない。それに尊敬している師匠でもある春円をこんな林の中で襲うなんて、やってはいけないことのような気がしてこれ以上触れるのを
「やだぁっ……! もう待てないッ……‼」
そう、春円が叫んだかと思うと、気付けば毛野は地面に押し倒されていた。
そして、熱い熱を
「今すぐ……、毛野が欲しい……」
「ッ……!」
その瞬間、毛野の中で何かが弾けるような衝動に襲われた。そしてそのときにはもう、ここが外だとかそんなことはどうでもよくなって、ただ目の前にいるこの人を自分のものにしたいという激情だけが、ただただ
「毛っ……! ぁ、やぁッ……⁉」
――あぁ、浴衣ってなんて便利なんだろう。どこからでも手が入るし、愛しい人の秘部にいともたやすく触れてしまえる。そして何より脱がせやすい。
あっという間に上半身の浴衣を降ろしてしまえば、目の前に広がるのは、白すぎる肌に可憐に添えられた二つの花のよう美しい花弁で、まるで花の蜜を吸うように、それを丁寧になぶり味わっていく。
「あっ……! だめぇッ、そんな風に
一方の花弁を優しく口に含みながら、もう一方は手でその先端を撫でまわす。
「ぁっ、あぁっ……! はっ、やッ、そんなされたら……っ!」
「かわいい……。ひょっとしてもう、我慢できない?」
「違っ、そんなことっ……‼」
違うと言いながら、もう限界が近いような顔で見つめてくる。
――そっちが
「ひぃッ……⁉ ちょっ、待ッ……‼ そんなに強くしたらぁッ……!」
可憐な二つの花弁をさらに強く追い求める。
「ぁ、ああぁッ……‼」
「……早いな。本当にもうここだけで――」
「や、違っ……! これはっ……‼」
涙目で首を左右に振る仕草が可愛すぎて仕方がない。そんな可愛いらしい頬に触れながら、一方の手で下半身を撫でていく。
「ひゃんッ‼ う、嘘っ……! やだっ、そんな急に、そんなとこっ! やぁっ、だめっ、待って……!」
「待てないっ! 春円が先に煽ったんだろっ……‼」
――せっかく、こっちは我慢してたっていうのに――。
「やぁっ……! あぁ、あっ、そこッ、だ、だめぇっ、む、無理ぃっ……!」
「……無理、じゃないだろ?」
「ぁ……、やっ……! あ、ああぁぁっ……‼」
「くっ……! きっつ……」
本来他人を受け入れる場所ではないそこを、自身を受け入れてもらうために慣らしていく。
「やっ、そこ、もういいからぁッ……!」
春円が、もう耐え切れないとでも言うように涙を溢れさせた。
「でも、もっと慣らさないと……」
「いっ、いいっから、早く、きてッ……‼」
涙で濡れているその瞳は真剣で、震える手で懸命に毛野を手繰り寄せる。
「あぁっ、もうっ……! 知らないからなッ‼︎」
少しでも優しくしてやりたかったが、もうそんな余裕はなくなっていた。
「ひゃぁぁッ! いっ、ぁぁあッ……‼︎」
だが、やはりまだ早かったのか、一瞬苦痛に身を歪めるような春円を見て思わず身体が固まる。
「ッ……! ごめんっ、やっぱり……」
少し冷静さを取り戻した毛野は、思わず身を引こうとするが、その頬を春円の手が優しく引き止めた。
「だ、大丈夫……。大丈夫だから、早く僕を毛野でいっぱいにして……」
涙を一杯に浮かべながらも、どこか穏やかな、毛野好きな春円の笑顔がそこにはあった。
「春円……ッ!」
溢れ出そうな思いを精一杯身体に込め、愛しい人の中にその気持ちが届くように深く、深く注ぎ込んでいく。
「ァっ……! 毛野、毛野ぉッ‼︎」
春円の背中に回した手が毛野の浴衣を激しく掴む。互いに限界を迎えたのはほぼ同時だった。
「はぁっ……、ッあ……。ね、ねぇ、毛野。呼んで?」
熱の冷めやらない潤んだ瞳が問いかける。
「えっ……?」
何のことか分からず、戸惑っている間にも春円はそっと手を伸ばし、優しく毛野の頬に触れ言葉を続けた。
「僕の本当の名前……、呼んで?」
「本当の、名前……?」
――そうだ。『春円』というのは本当の名前じゃない。春円の本当の名は――…。
「うん……。忘れちゃった……?」
少し寂しそうに不安そうに尋ねるから、安心させるように頬に触れる手をそっと包みこむように握る。
「……そんな訳、ないだろ」
――忘れるはずがない。幼い頃、一度だけ聞いたその名前。俺が尋ねると少しだけ悲しそうに、だけどほんの少し嬉しそうに答えてくれたその名前。普段は決して呼ばないでと言っていたその名前を――。
「……
「っ……! 毛野……」
本当に覚えていたんだというような驚いた顔をしたあと、とびきり美しい顔で微笑むと、その頬にまた涙が伝った。
「ありがとう……」
そう言って、抱きしめてくれる腕の中はとても温かくて。気づけば毛野自身もまた愛しい人の腕の中で頬を濡らしていた。
◇◆◇◉◇◆◇
「あっははー。すっかり泥だらけになっちゃったねー」
林の中だというのにいろいろと盛り上がってしまったせいで、せっかくの浴衣がお互いに泥だらけになってしまっていた。
「あぁ。誰かさんのせいでな」
「えー、ちょっとこれは僕だけのせいじゃないでしょう?」
「ぅっ……。まぁ」
春円に煽られたということもあるが、確かに歯止めが利かなかった毛野自身にも非がある。だからこそ、こうして無理をさせた春円を気遣い背中に背負って家路に向かっているのだ。
「ふふっ、冗談だよ。お詫びに帰ったら僕が身体を洗ってあげるから♪」
「っ……!はぁッ……⁉」
とんでもない
「だって、二人とも泥だらけだし、まずはお風呂に入らないとね?」
それは確かにそうだが、この状態でまた二人きりで風呂に入るというのは……。
「あれぇ~、顔真っ赤だけど何を想像したのかな~?」
言いながら、人の頬をつんつん突いてくる。この人は時折、本当にどうしようもなく子どもっぽくなるから困ったものだ。
「こっの……、ふざけるなよ、馬鹿師匠‼」
だけど、そんな子どもっぽい笑顔もどうしようもなく綺麗だと思ってしまうのだから、自分自身が一番、どうしようもない。
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