第10話(1/2)
『さすがにゴミ捨て場の前というのはロマンの欠片もないので』と言って、ゴミ捨てを終えた姫宮が向かったのは教室棟の最上階だった。そこの奥、階段から最も遠い場所へと、軽快な足取りで姫宮は行く。
「おい、まさか……」
「一応今日は休みらしいですし、誰もいないといいんですけど……うん、電気は点いてないみたいですね」
姫宮はそう言って目的地の部屋を確認すると、傍らに置いてあった消火器をどかす。
「あったあった。ここもちゃんと受け継がれてるんですね」
「……なんでお前がそれを知ってるんだ」
嬉しそうに手に取った鍵を穴へ差し込み、部屋へ入る姫宮に俺は訊ねる。
「……ヒナに言わせたら、なんでセンパイはヒナが知ってることを知らないんだ、って感じなんですけどね」
「えっ……?」
「さ、センパイ。中へどうぞ」
悪戯そうに笑う姫宮に促されて入ったのは、そう……生徒会室だった。細々とした備品は違うが、机や棚の位置は変わらない。切ない懐かしさがやって来る。
「ここに来るのも久しぶりです」
久しぶり……。普通なら入学の際など俺の知らないところで何か用があったのだろうと思うが、さっきからの姫宮の言動からして意味深いものがあるのは確かだった。
そうして姫宮がゆっくりと歩き、そして立ち止まったのは、奇しくも卒業式のあの日、先輩が立っていたあの窓際だった。西日をウケながら俺の方へ向き直る。
「まずはセンパイ、ヒナの為に怒ってくれて、ありがとうございました」
姫宮は深々と頭を下げた。
「お、おう……」
曖昧に返す。あれは姫宮の為であるが、それ以上に自分の為だ。
「さて、どこから話しましょうか」
「どこから、ってそんな長い話になるのか」
「そりゃあ半年……いや、一年くらいの答え合わせになりますから」
答え合わせ……? 一体どういう意味だ。
俺が眉をひそめていると、姫宮は単刀直入に、俺が今最も触れられたくないことを言った。
「センパイ、ヒナのこと好きなんですか?」
自身のその小さな唇に指を当て、いつものようにわざとらしく悪戯っぽく訊ねる。しかしそれを指摘する余裕は今の俺になかった。
「…………まぁ、うん」
吉澤達との会話を聞かれてしまっている以上、隠したって仕方がない。
「そうですか……」
困った顔をする姫宮。嫌な予感が目前に迫るのを感じた。
「センパイ、ヒナが気になってる人って、誰か知ってますよね?」
「あぁ……。吉澤はもうないとして、テニス部とかバスケ部のやつとかだろ」
当たり屋作戦をしたあの日のことを思い出す。あとは確か藤和の部活の先輩もいたっけ。
「そうです……」
姫宮はより一層表情を曇らす。姫宮が何を言いたいかは察しがついた。
そしてついに恐れていたこと告げる。
「……ごめんなさい」
深々と頭を下げる姫宮。
胸に込み上げるものがあったが、全て分かっていたことだった。
「……いいんだ。全部分かって――」
「――ごめんなさい。それ、全部嘘なんです」
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