第9話(2/4)
☆
しかしそんな俺達の予想に反して、姫宮は次の部活の日も、その次の部活の日も、そしてその次の部活の日である今日も、浮かない表情をしていた。というよりむしろ悪化しているようにも見える。
今日は金曜日なので藤和がいない。二人きりの部室自体は二回に一回は訪れるので慣れているが、今日はやけに閑散としてるように感じた。
俺は今日出された宿題をし、姫宮は本を読んでいるようだが、さっきからそのページはほとんど動いていなかった。
「…………」
「…………」
「……悩んでんなー」
沈黙に耐えかねて俺はそう声を掛けた。
「……え? あ、あぁ、すみません」
「いや、謝ることでもないと思うけど、もう二週間だろ? 付き合うにしても付き合わないにしてもそろそろ返事しないと吉澤先輩も困るだろ」
むしろ二週間も保留にしてよく待ってくれていると思う。
「そうですね……」
「まぁ深く考えずとりあえず付き合ってみるのもありだと思うぞ。そしたら案外悩みなんて大したもんじゃないかもしれないし」
「……彼女いたことないセンパイがなんか言ってる」
「おい」
アドバイスしてる人に対してなんて悪態だ。しかしまぁ軽口が言えるだけマシか。
「……センパイは、ヒナと吉澤先輩が付き合った方がいいと思いますか?」
俺に視線を向けず、閉じた文庫本の四隅をなぞりながら姫宮はそんなことを言った。
「そりゃあ、まぁ、そのために頑張ってたわけだし……」
「ですよねー……」
姫宮が言ったのはそれだけで、俺は質問の意図がいまいち掴めないままだった。
「……あ、ゴミ一杯ですね。ヒナ捨ててきますよ」
外に出る理由を見つけたように姫宮はそう言って立ち上がった。確かに部屋に備えられている可燃物と不燃物とペットボトルのゴミ箱はそれぞれ半分以上になっていて、そろそろ捨ててもいい頃合いだった。
「俺も行く」
「いやいや、だいじょぶですよ」
「一人じゃ三つは大変だろ」
「……そうですね」
この学校のシステムは、生徒がするのは各部屋に備えられたゴミ箱の中身を自転車小屋付近に置かれた共通のコンテナへ捨てるだけで、あとは業者さんがやってくれるというものだ。
俺は可燃物と不燃物のゴミ箱を持ってコンテナへと向かった。その後ろを姫宮がトコトコとついてくる。
「まだ暑いなー」
部室棟は共通したエアコンが効いているので平気だが、外に出るとまだまだ蒸してぬるい空気が身体を纏う。
「ですねぇー」
「そういやお前って、タオル持ってないよな」
「え? なんのことですか?」
「ほら、この季節になると女子ってみんな小さめのタオル持ってる動いてるじゃん」
そして冬にはみんな膝掛けを持っている。
「あぁ。ヒナあんまり汗かかないタイプので」
「ふーん。羨ましいな」
「男子もみんな団扇持ってますよね」
「あーそうだな」
俺も引き出しには携帯会社から貰った団扇が差さっている。
「この季節になると教室が色んなスポンサーでいっぱいです」
なんて他愛もない会話をしていると、どこからか盛り上がる男子達の声が聞こえてきた。見ると噂の吉澤先輩含めたサッカー部だった。
既にグラウンドではサッカー部が練習をしているようだが、水飲み場の前で悠長に雑談している。
……あぁ、そうか。三年生はもう引退しているから、手伝いとしての参加なのだろう。
そう中学時代の経験から推測し勝手に納得する。
コンテナへ行くには彼らの脇を通らなければならないが、俺は俺で姫宮と一緒にいるのを吉澤先輩に見られるのは悪いと思って、姫宮も姫宮で告白を保留にしている今会うのは気まずいからか、見つからないように進む。したがって先輩達は俺達に気付くことなく話を続けていた。
「リューヤまじやべぇわー。今何人よ?」
「んーっと……五、六、七……八以上?」
「把握してねぇのかよ……。それでよくバレねぇなぁ」
「意外となー。ポイントは同じ学校では作らないこと」
「なるほど。あ、でもなんだっけ、あの子。うちの一年」
「姫宮雛?」
「あーそうそれ。付き合ったんじゃないっけ?」
「いやー、あいつ軽そうに見えて意外とガード固くてさぁ。ま、あと一歩って感じ」
「あ、そうなんね」
「ゆうてあれとはガッツリ付き合う気はないけどな。やっぱ一年つっても同じ学校はリスク高いし。何回かヤったら受験だとか適当に理由つけて別れるつもり」
「うわひで~」
「ヒナちゃん可哀想~」
「お前らも人のこと言えないだろ」
「まぁな~」
…………おいまじか。
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