第9話(1/4)
「本当にいい夏休みでした……」
二学期最初の後輩部活動日、藤和がしみじみと呟く。
確かに今年は、生徒会活動ばかりだった去年とはまた違った充実具合だった。
夏祭りの予行練習や藤和の定期演奏会の他にも、後輩部の帰りに少し遠出して最近話題のふわっふわのかき氷を食べに行ったり、案の定残されていた姫宮の課題を二人で手伝ったりと、本当に色々あった。
「藤和は合宿もあったもんな? 先輩達とはどうだった?」
「うーん、合宿ではそんなに話す機会もなかったですね。部屋も入浴時間も学年で分けられていたので」
「あぁ、そっか」
「けど遅くまでみんなでトランプしたりお喋りしたりで楽しかったです」
藤和がにっこりと微笑む。弦楽部では上手くやれているみたいだ。
「そりゃ良かった。……姫宮は? あれから諸先輩方とはどうなんだ?」
花火大会はもちろん、日々LINEが忙しいと言っていた。こちらも順調に運んでいるように思える。
「……えっ?」
ハッとした様子でそう答える姫宮。
「いや、だから夏休みを経て、先輩達とはなんか進展あったのかなって」
「あー……まぁ、はい……」
なんだか煮え切らない態度だった。
やはり今日の姫宮はどこか様子がおかしい。うわの空で、何か考え事をしているような感じだ。
「どうしたのヒナちゃん? なんだか変だよ?」
藤和も同じように感じていたらしく、そう声を掛ける。
「え、そ、そうですか?」
「うん。何か悩みごと? それなら私相談に乗るよ?」
「あ、うん、ありがとです……。でも、これは……うぅ……」
その反応からして姫宮に何か悩みごとがあるのは確かだった。
「……言わない方が……うぁーでもでも逆に……うーん……」
姫宮は頭を抱えて何やらぶつぶつと呟いていた。
「ほら、今までヒナちゃんにはいっぱいお世話になったから。ね?」
それが決め手だったのか、姫宮はむくりと顔を上げると、一つ深呼吸をして言った。
「実は、その……告白されてしまいまして……」
「え、ほんと?」「おぉ」
「はい……」
姫宮は顔を赤くして答える。
「相手は誰なの?」
「えっと、それがその、実は……吉澤先輩なんです……」
「うそ」「マジか」
吉澤先輩って、あの吉澤先輩だよな。サッカー部のエースの。
「はい……。まぁ告白されたと言っても『ヒナちゃんさ、彼氏いないんでしょ? だったら俺と付き合わない?』って具合なんですけど……」
「十分告白だよ!」
普段は比較的冷静な藤和も、さすがに興奮気味でそう言った。
「……やったじゃん」
「え?」
「目標達成じゃん」
姫宮の立てた目標の一つは、イケメンの先輩の彼女になることだ。つまりこれで目標はほぼ達成したことになる。
「あー……まぁ。そうなんですけど……」
喜ぶべき状況のはずなのに、姫宮はどこか煮え切らない態度だった。
「どうしたのヒナちゃん? 何か不満あるとか?」
「あ、や、いえ……。なんかあまりにすんなりだなーって」
「それは確かに」
正直、姫宮のルックスやノリの良さならいずれは誰かを射止めることになるだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く訪れるとは。
「なんか、このまま付き合っちゃダメかなって……」
「いやいや、それは別にいいだろ」
「……けどヒナ、何も成長した気がしてませんし。ヒナじゃ吉澤先輩と不釣り合いですよ」
「そんなことないよヒナちゃん! ヒナちゃん可愛いし。もっと自信持って!」
「うーん……」
藤和が励ますも、姫宮の顔は曇ったままだった。
「(どうしたものでしょうか……)」
「(困ったものだな)」
藤和と顔を寄せ合って姫宮に聞こえないように内緒話をする。
「(もしかしたらマリッジブルーみたいなやつかもですね)」
「(あー、確かにそれっぽい)」
「(ヒナちゃん前に、今まで誰かと付き合ったことないって話していましたし、いざそれが目の前となると色々不安なのかもしれません)」
「(なるほど。……ってなると、俺らがあんまりとやかく言わない方がいいかもな)」
「(そうですね。見守ってあげましょう)」
「(ま、あいつのことだから数日後にはひょっこり『付き合うことになりましたー♪』って報告して来そうだけどな)」
「(ふふっ。そうですね)」
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