第6話(2/5)
「それで、センパイはどんなこと意識してたんですか?」
「うーん……」
俺はしばし考え、ポケットの中に手を入れる。そこにはボイスレコーダーがあった。重要な話の時はこれを起動させ、聞き漏らさないようにするためだ。生徒会が終わってから使うことはなくなっていたが、習慣となり未だにポケットに常駐していた。
しかしただの勉強の質問に対して、これを使うのはやり過ぎだろう。
「……例えば、しっかり話を聞くのは大前提として、質問の仕方には気を付けてたな」
「と言うと?」
「具体的には三つ」
俺はホワイトボードの前に立ち、ペンのキャップを取る。
「まず一つ目。教える側だっていつでも教える時間があるわけじゃないし、自分のことに集中したい時もある。つまり『タイミングを計ること』が大切だ」
「ふむふむ」
「そんで二つ目。質問する時は『ここまでは分かってる』って自分の理解度を説明するんだ。これはさっき言ったのと同じことだな。相手がどこまで理解出来ているか分かれば、教える側も教えるべきことが分かる」
「なるほど」
「で、最後に、『お礼をしっかり言うこと』だな。理由は言わなくても分かるだろう」
二人が頷くのを見て、俺は本題に入る。
「じゃあ勉強会に入る前に、まずは言っといたあれ、見せてもらおうか」
「はい」
「……や、やっぱりなくてもいいんじゃないですかね? 過去の結果は所詮過去の結果ですし! 期末とは範囲も全く違いますし!」
「いいから見せろ」
「センパイが見せろと強要してきます! これは歴としたセクハラです!」
「ふざけてるならやっぱ止めるぞ」
「うぅ……」
姫宮はしぶしぶ、足元に置いたリュックからキャラクター物のクリアファイルを取り出し、中からプリントをいくつか引き抜く。それを俺は奪い取ってまじまじと見つめる。
「……想像より酷いな」
「…………」
横から覗き込んでいた藤和も苦笑いだ。
言っといたあれ、とは中間テストの答案用紙のことだった。五枚うち、これは小テストか? と思えてしまうような一桁のものもそこにはあった。
前に藤和の頭が良いという話題の時に、学年で下から三番目だとは言っていたが、こうして結果を見ると本当に酷い。
「ってか、高一最初のテストなんてほとんど中学の内容だろ。一応ここの受験は抜けてきたんだから、ここまでボロボロってのはおかしくないか?」
「いやぁ、受験終わってホッとしたのと、春休みを満喫してたのですっかり抜け落ちちゃいましたー♪ あははー♪」
「あははー、じゃねぇよ」
たった数ヶ月前のことくらいちゃんと覚えてろ。
「いいじゃないですかー。女の子はちょっとくらいおバカな方が可愛げがあるって」
「お前のこれは、ちょっとの域を超えている」
「むー」
俺は藤和の解答用紙を見やる。そこには丸ばかりが並んでいた。
「なんでお前らが同じ学校にいるんだろうな……」
「ヒナは受験で超頑張ったので!」
「私は弦楽部がある一番近くの高校がここだったので」
なるほど。運命みたいな巡り合わせだ。
しかしこう性格も能力も正反対みたいな二人だったが意外と相性は良いらしく、連絡先を交換して以降、何度か休日に遊んでいるみたいだ。後輩部のグループLINEも、基本は二人で会話している。
「というか、あの神楽坂会長が同じ学校だったというのも不思議な話ですよね」
「あー、それなら確か前に言ってたな。『この県で一番生徒数が多くて、まとめ甲斐がありそうだったから』らしい」
「うへー。中学の時から上に立つ気満々だったんですね……」
姫宮が唖然としている一方で、藤和はなんのことか分からないといった顔をしていた。
そういえば藤和は、俺が去年生徒会にいたことも神楽坂先輩の伝説も知らないのか。
まぁわざわざ説明しなくても、俺のことはともかく、神楽坂先輩のことはこの学校にいる限りどこかで耳にするだろう。
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