第6話(1/5)

「ということで、今日はそこの馬鹿のために勉強会を開きたいと思います」


「わーい♪」

「はい」

 六月も終わりに差し掛かり梅雨もすっかり明けると、期末テストが迫っていた。


 俺自身は、普段からコンスタントに勉強をしていたので、「あー、もうすぐかー」くらいの感想しかなかったのだが、馬鹿もとい姫宮は違ったようで「センパ~イ! お母さんに、中間みたいな点取ったらお小遣い無しって言われたんです~! 助けてください~!」と連絡があったのだ。


「あー、めんどくさい」

「なんでですかー」

「だってほら、後輩部関係ないじゃん。しかも上級生は俺だけなんだから切磋琢磨っていうより完全に指導側だし、藤和も勉強会の必要ないレベルだし、完全にお前のための時間じゃん」

「うぅ……」

「ぶっちゃけ早く帰って漫画読みたい。ちょうど今いいところなんだよ。主人公の思い出の子が急に現れてさ」

「ちょ、それヒナが貸してるやつじゃないですか」

「おう。あれあんま期待してなかったけどおもろいな。萌え系のようでストーリーもしっかりしてる」

「ですよねですよね! いやぁ、ヒナもヒロインが可愛いって聞いて買ったんですけどこれがまた意外と――ってそうじゃなくて! というか、だったら漫画のお返しに勉強見てくれてもいいじゃないですかー!」

「う……」

 そう言われてしまっては弱い。


「けどほら、そこは普段の部活で指導してる分ということで」

「むぅ……。分かりました。そんなに続きが気になるならヒナが教えてあげます。あの思い出の女の子って実は――」

「――分かった分かった分かった! ちゃんと勉強見てやるから! 懇切丁寧に指導してやるから! だからそれだけは本当やめろ!!」

 慌てて姫宮を制止する。その様子を藤和がいつものようにくすくすと笑って見ていた。


 あー、そうだ。こう思えばいいのか。


「とはいえただ勉強を教えるのもなんだしな。後輩部らしく行こう」

「と言いますと?」

 藤和が首を傾げる。


「教わり方を練習するんだ」

「ほぃ?」

「教える側が教えたくなる教わり方と、教えたくなくなる教わり方ってのがある。極端な話、授業中居眠りしてるやつより、意欲的にノート取ってるやつの方が先生だって気分が良いのは分かるだろ?」

「確かにそうですね」

「つまり、ただ勉強するだけじゃなく、教わり方を意識しながらやっていこうということですね!」


「そういうことだ。例えば今の姫宮のは良いぞ。話を噛み砕いて、『つまりこういうことですよね?』と確認されることで、こっちとしてもお前がちゃんと理解できているかが分かる」

「なるほど! 関係ないですけど、ヒナ今初めてセンパイに褒められた気がします!」

 姫宮が満足そうな笑みを浮かべていた。

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