第5話(5/6)

「きゃっ」

「うおっ!」


 見事に二人の身体は重なり、姫宮はプリントをまき散らしてその場にへたり込む。姫宮らしからぬ自然な動きだった。


「何やってんだよリューヤ」

「隆也、イエローカード」

「うるせぇな。ノーファールだ」

 後ろで笑い合っている二人に突っ込みを入れると、吉澤先輩は姫宮の顔を一瞥して言った。


「……あー、悪い。大丈夫か?」

「こ、こちらこそすみません! 大丈夫です! そちらこそ怪我はありませんでしたか……?」

「余裕余裕。鍛えてるし」

「なら良かったです」

 姫宮はほっと胸を撫でおろす。


「ちょっと話に夢中で前見てなかったわ。ごめんね」

「そんなそんな! こんな端っこ歩いてたヒナも悪いです! ……あ、ヒナが拾うからだいじょぶですよ!」

 そう言って、二人して散らばったプリントを拾い始める。後ろの二人も、見てるだけじゃ居心地が悪いといった具合に数枚拾っていた。


「ヒナちゃんって言うの?」

「あ、はい。ヒナは姫宮雛です」

「可愛い名前してんね。……俺は吉澤隆也」

「えっと、先輩……ですよね?」


 何が、先輩ですよね? だ。三年生どころかサッカー部のエースで得意なプレーが何かも知ってるクセに。しかし本当に、らしくなく上手いな。


「おう、三年。ヒナちゃんは一年?」

「はい」

「だよねー。こんな可愛い子が一年もいたら噂になってるだろうし」

「いやいやいやいや! ヒナなんて全然ですよ!」

「や、マジだって。なぁ?」

「マジマジ。うちのマネージャーと交換して欲しいわ」

「お、今度チクってやろう」

「悪い冗談はやめろって!」

「はっはっはっは」


 なんだか一気に陽気な雰囲気が漂っていた。

 プリントを集め終わり、姫宮の手元に帰ってきたところで吉澤先輩が言った。


「あ、そうだ。ヒナちゃんこの後暇? 俺らと遊び行こーよ」


「(おお!)」

 思わず声が漏れ、藤和と目を合わせる。


 まさか向こうの方からやって来るとは。まぁ見た目はいいもんな姫宮。特に今は猫カフェ開けるくらいの量の猫被ってるし。


 しかし姫宮は何やら困ったように、ちらちらとこちらに視線を外していた。


「あー……すごく嬉しいんですけど、この後ヒナ用があって……」

 てっきり誘いに乗るかと思っていたが、姫宮はそう言った。本当に予定があるからなのか、一応今は部活中だから勝手には抜けられないということだろうか。だとしたら変なところで真面目だな。


「マジかー。残念だわ。……じゃあさ、LINE交換しとこうぜ!」

 そう言って吉澤先輩はポケットからスマホを取り出す。


「それなら良いですよ! …………あ」

「どしたん?」

「えへへ……。スマホ鞄の中です……」

「おいおーい」

「申し訳ないです……」

「まぁ次会った時でいいよ。同じ高校なんだし、すぐ会えるっしょ」

「ですね! お願いします♪」


 じゃ、またねー、と姫宮達は別れた。

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