第2話(5/5)
「お前はなんか切っ掛けがあったのか?」
「なんのですか?」
「いや、人生を豊かにするために優れた後輩になる、って中学卒業したばかりのやつがなかなか思うようなことじゃないだろ」
俺だって去年一年、神楽坂先輩のもと色々学ぶことがあったから、先輩と良好な関係を築くことの必要性が分かるようになったみたいなものだ。
「実はヒナも、中学の時に生徒会に入ってたんですよ」
「え、マジで」
「なんですかその意外そうな顔」
「だって意外じゃん」
「否定はしませんけどー。……で、色々思うことがあったーみたいな」
「ふーん」
若干はぐらかされたような気がするが、行動は子供っぽいようでその実考えることは色々考えているのかもしれない。
すると姫宮は何を思ったのか、突然俺の少し前を行くと道路側に回り込んで、そのまま縁石の上を平均台のようにして歩き始めた。両手を広げてバランスを取っている。
「こういうのよく漫画で見るんですけど、どうです? 可愛くないですか?」
「別に。普通に危ないから止めろって思う」
落ちてもせいぜい足を捻るくらいだが、ちょうどその時横を車が通りでもしたら大惨事だ。それは姫宮はもちろん、運転手からしてもいい迷惑だ。
俺の言葉に、姫宮は「むぅ」と唇を尖らせつつも大人しく降りて元の位置に戻る。
「お前のやるその“可愛い行動”って一体何で学んでんだ」
「基本漫画ですね。あとはアニメとかネットで見たのとか」
「なるほど……」
だから妙に演技掛かってるのか。素材がいいんだから、変に意識せずに普通にしてればいいのに。
「……残念だなぁ」
「え、ちょ、それどういう意味ですか!?」
「いや、大した意味じゃないって」
「大した意味じゃない残念ってなんですかもう!」
姫宮が俺の肩辺りを叩く。これもまた本気ではなく、可愛らしさを意識したような叩き方に思えた。
「そんなことより、どんな漫画読んでんだ? 面白いのあったら貸してくれよ」
「うわ完全な話題逸らし! 分かりやすっ!」
なんて言いながら、姫宮は参考にしたという漫画をいくつか挙げる。てっきり少女漫画が多いかと思ったが、少年誌で連載しているのが主だった。まぁ、男心を掴むならそっちの方がいいかもしれない。
それからお互いの好きな漫画の話をし、前々から気になっていた作品を貸してもらうことが決まったところで駅に着いたので姫宮と別れた。
駅周辺は人が多い。俺はしばらく自転車には乗らず、そのままゆっくりと押し進める。
――姫宮雛。
計算高く可愛さを作り上げる少女。
その計算式の一部に選ばれたのはシャクだが、早々と家に帰って無為に過ごすよりは良いのかもしれない。
活動日も、一応毎日部室は解放しているらしいが、義務付けられているのは火曜と金曜の週二日だけと負担じゃないし、やること自体も姫宮と喋ってるだけだ。
由優に退部の協力をしてもらう必要はなさそうだな。
そんなことを考えていると、ふい鼻がむずがゆくなったので、俺は手の甲で撫でる。
柑橘系の、甘い香りがした。
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