第2話(3/5)
「じゃあ、いわゆる仕事的な理想の後輩の方はそれでいいとして、恋愛的な方の理想の後輩はどうする?」
そう投げかけつつも、正直こっちの方は気が進んでいない。もし姫宮に具体的な相手がいて、そいつが好きで付き合いたいってのならいいけど、昨日こいつが言ってたのは、単に“イケメンの先輩の恋人”というステータスが欲しいだけのように思えた。
まぁそれを諫めるほど、姫宮に肩入れするつもりはない。あくまで俺は、暇潰しに姫宮に付き合っているだけなのだから。姫宮と衝突してまで彼女を成長させようとしていないし、そこまでの義理もない。それに、惚れた方の負けとも言うし、最終的に姫宮も好きになればいいわけだ。
なんてことを考えていると、さっき俺が姫宮に説明した理想の先輩と後輩の関係とは程遠いな、と思って少し笑えた。やっぱり先生と生徒、それも学校よりは塾の、少しドライな関係だ。
「で、どうだ?」
「うーん……」
目標があり過ぎるのか、何か迷っているようだった。
「まぁこっちは決まりやすいだろ。ほら、昨日言ってたように、カッコイイ先輩と付き合う、みたいな」
「……あー、それいいですね。うん、良い! それで行きましょう!」
そうして姫宮はホワイトボードに記入する。これでひとまず具体的な目標が決まった。
それと同時に、見計らったようにチャイムが鳴る。
時計を見ると、六時を指していた。運動部や大会を控えた文化部、そして生徒会を除いて、完全下校の時間だ。
「おっと。もう帰らなきゃですね。ヒナ、鍵返してくるので、下駄箱のとこで待っててください」
「ほーい」
元々荷物は広げていない。鞄を持って早々に部室から出る。
夕日が差し込む廊下を進み教室棟に一度戻ると、昇降口へ向かった。靴はまだ履き替えず、下駄箱の側面にすがって姫宮を待つ。ちょうど目の前に掲示板があった。ここには啓発ポスターの他にも、全部活のポスターも貼られている。
「こうやって見ると、異常な量だな……」
白黒のシンプルなものから、百枚近い量の中でも埋もれないほどに目を惹く派手なものまで、多種多様なポスターが貼られている。
後輩部を探すがなかなか見つからない。確かメインとなるこの掲示板には、全部活の掲示が義務付けられているのでどこかしらにあるはずなんだが……。
「お待たせしました」
「なぁ、後輩部って貼ってんの?」
「え、貼ってますよ。なんてたってヒナが貼ったんですから。えっと……確かあの辺に……あったあった。あれです」
姫宮が指差したのは、掲示板の右上の端。注視しなければ見つからないところにあった。
「端しかスペースがなくて……」
確かに中央の目線が集まりやすいところは、サッカー部や吹奏楽部などのメジャーどころが制圧していて、ちょっとした隙間もなかった。
「だったらもう少し目立つの作ればよかったのに」
「それもそうなんですけど、時間がなかったので」
「ふーん」
別に急ぐようなことでもないだろうに。まぁこんな部活、大所帯になっても困るか。
俺は目を凝らしてその文面を読む。そこには昨日姫宮が言っていたようなことの他にも、
「上下関係の悩み相談も受けつける、ってなんだ」
「あ、気付いちゃいましたか。申請の時に、優れた後輩を研究するだけじゃ薄いって先生に言われて。なので活動内容をちょっと足しました」
「えー……」
そんなのやるつもりはないぞ。
「まぁそんな顔しないでください。どうせ来ませんから」
確かにこんなポスターに気付くやつなんてまずいないだろう。
「それにセンパイ、すでにヒナの相談に乗ってくれてるじゃないですか」
「九割不本意だけどな」
「やーんセンパイのツンデレー♪」
「言ってろ」
そう言って俺は帰るべく踵を返した。
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