第1話(1/3)
中間試験が終わり、教室が歓喜の喧騒に包まれる。
ようやく部活できるー、とか、帰りカラオケ行く人ー、などと言った声が飛び交っていた。俺は小さく息を吐く。
「ゆーうやーっ。どうだった?」
「俺の机に座んな」
直接尻に触れるのは嫌だったので、鞄で押して机から落とそうと試みる。
しかしバスケ部で鍛えたその身体はやたら頑固だった。
彼は
「で、テストどうだったわけよ。どうせ聞かなくても分かるけど」
春樹はしぶしぶ机から降りて、話を続ける。
「各九十は固いな」
「うひゃー。遠いところに行っちまったもんだ……」
「どういうことだよ」
「だって、中学の頃は俺と大差なかったじゃん」
「まぁそうだな」
「それが今では学年五位以内は当たり前なわけだろ? さすが神楽坂会長の愛弟子」
春樹が茶化したように言う。
「やめろってそれ」
「んだよ、まだ引きずってんのか」
「……いや、そういうわけじゃないけどさ」
あれから先輩とは一度も連絡を取っていない。気まずいからなのはもちろんだが、あれだけ密度ある一年をともにして、その結果が“ただの後輩”だったなら、いずれにせよ関係は途切れていたことだろう。
「そういうわけな態度に見えますけどぉ~?」
顔を覗き込ませてにたつく春樹。
「うっさいなぁ。お前部活だろ。さっさと行けよ」
「へいへい。優也も生徒会入らなかったんだから、なんかやれば? せっかくやたら乱立されてるわけだし」
そう、この一ノ瀬高校ではなんの方針か、部活設立が容易で、大小多くの部活や研究会が存在する。噂によるとユーチュー部やヤドカリ研究会なんてのも存在するらしい。
「つっても今さら部活なんて入れるかよ。気まずい」
「まぁそれも確かに」
んじゃな、と言って春樹は部活へと走っていった。
俺も鞄を持って下駄箱へ向かう。
「(確か今日は俺が当番だったっけ……)」
家の冷蔵庫に張り付けられた当番表を思い出す。両親が共働きで帰りが遅い我が有栖家では、夕食前の洗い物と炊飯は、同じ学校に通う一年の、妹・
当番なら寄り道せずに帰らないとなぁ、なんてことを考えていると、
「あのぅ……
一人の女子が、俺の前に立ってそう言った。
胸元のタイがピンク色ということから一年生だと分かる。
しかし、肩まで伸びる髪は明るい茶色に染まり、耳の上から後ろの方へ編み込みが施されているし、ぱっちりとした二重が印象的なその顔も派手すぎない化粧がなされている。
制服も適度に着崩され、オレンジ色のカーディガンを纏って個性を出している。
……なんというか、すごく慣れた、可愛い女子高生のお手本みたいな少女だった。
「え、あ、はい……」
なぜ俺の名前を知っているのかと思いつつ返事をする。
すると彼女は至極真面目な顔で、
「ヒナを後輩にしてください」
そう言ったのだった。
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