第1話(2/3)
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
意味が分からない。恐らく存在しないであろう養鶏部への勧誘でないとするなら、恐らくヒナとは彼女の名前だ。そうすると同じ学校の二年生と一年生なんだから、いうなれば彼女は既に俺の後輩にあたる。
「あぁ、えっと、言葉が足りなかったです。すみません」
ポカンとする俺の反応を見て、少女は再度言い直す。やっぱり彼女の言葉は何かの間違いだったようだ。たぶん上級生に声を掛けることに緊張してたのだろう。
「ヒナをすごい後輩にしてください」
「はい?」
やっぱり分からなかった。というかむしろもっと分からなくなった。なんだすごい後輩って。
「と、とりあえずどちらさま? 名前教えてくれる?」
「え…………あぁ、はい。ヒナは
「……ええっと、姫宮さんを、すごい後輩にするの?」
「…………」
姫宮と名乗る少女は、なぜか目をぱちくりして固まっていた。ややあって、今度は何かを考えるように目を閉じる。
「…………姫宮さん?」
「……え、あぁ、はい。そうです。ヒナをすごい後輩にしてください」
「俺が?」
「はい」
「…………ごめん、頭痛くなってきた」
「え、頭大丈夫ですか? あ、ヒナ正露丸あります!」
急いで鞄を漁る姫宮を手で制す。頭が心配なのはこいつの方だ。
「うん、気持ちだけ貰っておくから、とりあえず落ち着いて話が出来るところへ行こう」
ここは下校時間の廊下の真ん中だ。先程からちらちらと俺達を眺める人が結構いた。
「あ、そういうことなら……」
そう言って連れていかれたのは、部室棟の一室だった。六畳くらいしかない手狭な部屋には、ホワイトボードが一つと長机が一つ、そしてそこに収まったパイプ椅子が四脚。ドアから遠い方の二脚に、俺と姫宮は向き合って座る。
「あー、えっと、ここは?」
「ここは後輩部の部室です」
「購買部?」
「いえいえ、購買部じゃなくて後輩部です」
「……後輩部って?」
すると姫宮は、よくぞ聞いてくださったとばかりに、得意気に鼻を鳴らして立ち上がった。
「優れた後輩となり、先輩と良い関係を築く……。これは人生において非常に重要なことなんです」
「はぁ……」
「例えば、カッコイイ先輩と知り合いだというだけで、同級生の女子からは羨望の眼差しを向けられます」
「……確かにそういうのはあるかもな」
実際去年一年間、神楽坂先輩とよく一緒にいたから羨望や嫉妬の目はよく向けられていた。あれは確かにちょっとした優越感があった。
「付き合ったりした日には、もう一躍時の人ですよ!」
「まぁそうかもな」
「それでそれで、大学生になれば、過去問を貰ったり楽な授業を教えて貰ったりするじゃないですか。社会人に至っては先生なんかいないので先輩から何もかも教わるわけですし」
「ふむ」
俺は大学進学のつもりだから、まだ社会人のことはよく分からないけど、「可愛がられる後輩になれ」ってよく言われてるのは聞いたことがある。
「そこで、そんな理想の後輩を研究し、理想の後輩になるためにヒナが作ったのがこの後輩部です!」
ホント何でも作れるなこの学校。
「で、俺に協力しろと?」
「はい! センパイには、ヒナを理想の後輩にしてもらいたいんです! 一人じゃ限界がありますし、後輩を学ぶにはやっぱ先輩という存在は必要ですし!」
姫宮は両手を胸の前で握りしめて、可愛さを振りまく。
「いやまぁ言ってることは分かるけど…………なんで俺なんだ?」
率直な疑問を投げかける。
なんせ俺と姫宮は面識がない。普通こういうのは、知り合いに頼むのが普通だろう。
「え、だってセンパイ、『究極の後輩』じゃないですか」
「……は?」
なんだそのダサい二つ名。
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