水の味

 グラウンドにある水飲み場の蛇口を上に向けると、水は重たげに蛇口を伝って地面に垂れ落ちていった。

 その蛇口の口、水源に口を近づけて水を少しずつ飲む。食道に冷たさが駆け抜け、胃に入ると、すぅっと身体に冷たさや水分が吸い込まれていくのを感じた。

 適量水を飲み、バルブを閉めて何気なく空を見上げる。

 夏の終わりを感じさせる、筋っぽい雲が遠く遠くで流れていた。それを見て、空気を吸い込んで、俺はふと、本当に夏は終わったんだということを改めて確認した。

 上を見ていたらこめかみの辺りに熱い液体が伝った。耳に入りそうになって咄嗟に前を向く。

 その液体は止まることなく今度は頬を伝っていく。水とは全然違う、しょっぱくて美味しくない、身体は全然求めていない熱い液体。それは目から延々流れ出ていく。

 もう、ここでこうして水を飲んで旨いとか思うのも、最後なのかも知れない。

 水の味なんて、わかりもしないけど。

 このグラウンドで飲んだ水は、間違いなく青春の味。


(2020年6月28日 カクヨム初出)


―――――


登場人物紹介

 俺(18歳)

  青春を駆け抜けた青二才。

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