輝きじゃなくてキミが

「ヤバくない?」

「んー、ヤバいまではいかない?」

「疑問に疑問で返さないでください」

「ヤバ、ウケる」

 アンリの手が私の腋から脇腹を撫でていった。正直くすぐったくて、変な声が出そう。

 ダイエット雑誌に載っていたリンパマッサージも、だいぶ上手になった。多分私もアンリも。その成果としてお風呂に入るとき少しくびれが見えるようになった……気がする。それでも脂肪がまだ沢山ついているから、ついアンリとマッサージしあう度に確認してしまう。

 六月。太陽の活動時間が伸びた教室では、窓の外の橙とはあまりにもミスマッチな白い蛍光灯が私たちの姿をくっきりとさせていた。

 今日は私のバイトが遅番だから、いつもみたいに家でマッサージできなくて、でもバイトまでの時間が暇で。私の思い切った提案で教室で最近恒例のマッサージ合戦をすることになった。勿論制服の上からだけど。

「ミスズは彼氏作らんの?」

 遠慮がちのアンリの問いかけが少しチクっとする。

「だーから、言ってるじゃん? これで痩せて、海で彼氏作るの」

「でもさー」

「いーじゃん! アンリは自分のダーリンのことだけ考えなさいっ!」

 アンリの手のペースは落ちることはなかった。もう身体の動きの一部として染み込んでるんだと思う。

「じゃあ次は私の番だね」

 アンリは背中まである黒い髪をしなやかになびかせながらくるりと私に背を向けた。さっきアンリが私にしてくれたように、腋から脇腹を撫で始める。腋を触った途端アンリが肩を震わせた。

「ぐふっ……やっぱこれ慣れないわ、もごっちゃい」

「女子力低いんですけどこの子ー」

 アンリは素直で可愛いな。女の私から見ても可愛い。だから彼氏が出来るんだろうな。私より幾分か細身なアンリの背中を見ながら、アンリが欲しいと思った。

 脇腹まで下りた手を回して、アンリを後ろから優しく抱きしめる。

 華奢な背中、夜空みたいに綺麗な黒い長髪、素直な性格、私が我慢しちゃうところでも我慢しない気楽さ。アンリが、欲しいなぁ。

「ミスズ?」

「アンリ」

『なんで、彼氏なんて作るの。

私は、アンリが持ってるものが欲しいんじゃないの。

きらきらしてる、アンリが欲しい』

「暑いね」

「それな」

 どちらともなく何故か笑いがこみ上げた。私達は笑った。抱きしめた腕をきゅっと弱く握るアンリは、やっぱり可愛くて。アンリが幸せならそれでいいんだって自分に言い聞かせて。

 放課後が暮れる。


(2017年8月14日 pixiv文芸投稿 再録)


―――――


登場人物紹介

 ミスズ(16歳)

  アンリのことを親友と思っている。

  親友ゆえに独占したい、奇妙な感覚に戸惑っている。

  男っ気はないけど、結構モテてしまうのが悩み。


 アンリ(16歳)

  ミスズのことを特別に思っている。

  彼氏のことも好きだと思うけど、ミスズの方が大事だと思っている。

  天然そうに見えて、ミスズの前であざとく振舞っているところがある。

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