第145話 告白

 彼の車の中で、私はずっと泣いていました。ナミさんは車の後部座席に転がっていたティッシュの箱を差し出してくれました。


 私は紙を出して、鼻をかみました。よく鼻をかむ日だと思いました。大きな音を出しながら、何度も何度も鼻をかんで、ごみ袋に入れ、それを繰り返していました。


 箱の中の残りの紙がずいぶん少なくなってしまった頃でした。


「ナミさんの、子どもがうみたい・・・」


 鼻水が落ち着くと、なぜかそんな言葉が出ました。


 ふとナミさんを見ると、固まっていました。私は動転しました。


「待って、私、変なこと言いました!いま、変なこと言いましたね?気のせいですから、忘れて下さい!」


 大きな声で打ち消そうとしましたが、その場の言いようのない空気は取返しのつくものではありませんでした。


「いや・・・いろいろ衝撃ですけど、忘れようもないですよ。ゆりかサン、そんなこと思ったんですか・・・?」


「いえ、思ってないです!聞き間違いだと思います・・・!」


 全力で否定しようとしました。なんとかごまかさなければと、自分でもわけがわからず必死でした。


「取り消さないで下さい・・・びっくりしたけど、嬉しかった・・・」


「え?そうなんですか?だって・・・」


 お付き合いもしていないのに・・・?好きですとか、付き合って下さいとか、そういう話もしていなかったはずでした。


「ナミさんが、すきです・・・」


 ずっと言えずにいました。自分が彼にふさわしいとは思えず、言い出せない気持ちでした。


 ですが子どもなどと口走るよりは、先に言えば良かったと思いました。


 ナミさんが手をつないでくれた時、言い知れぬよろこびに心が震えました。愛しくてたまらなくて、おかしくなりそうでした。あまりに幸せで、信じがたくて、私はまた泣いていました。

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